11月22日に行なわれた北海道日本ハムファイターズのファンフェスティバル。当日は、今季限りで現役を引退した稲葉篤紀(42)の雄姿を一目見ようと、札幌ドームに4万人近いファンが詰めかけた。
稲葉の打撃理論は非常にシンプルだ。大切なのはタイミングとポイント。ヤクルト時代に、中西太臨時コーチから徹底的に叩き込まれた打法だ。稲葉がいう。
「投球に対して自分のタイミングを合わせる。自分のポイントまで引き付ける。そして下半身を使って全力で振る。これだけです。難しく考えずにシンプルに。これが20年間の現役生活で僕のたどり着いた結論です」
昨年から稲葉が打撃コーチを務める侍ジャパンの選手たちの中にも、彼の打撃理論の信者は多い。その代表格が巨人の坂本だ。
「前回のWBCの時、(坂本)勇人にバッティングのアドバイスをしたら、たまたま彼がホームランを打ったんです。だからゲン担ぎの意味もあって、よく意見を聞きに来ます」(稲葉)
坂本以外に、楽天の嶋や銀次、ソフトバンクの今宮なども、稲葉の元を訪れてアドバイスを乞う。そんな稲葉のコーチとしてのモットーは「教えすぎないこと」だという。
「コーチは教えるのではなく、サポートするのが仕事。選手が困っているときにヒントを与えてあげる。その中で選手自身が考える。そうやって選手は技術や感覚を自分のものにしていかなくてはいけないと思うんです」(稲葉)
侍ジャパンのコーチとしての目標は当然、次回WBCでの世界一奪回。ただ、稲葉にはそれとは別に第二の人生の目標もあった。お世話になった北海道への恩返しだ。
「野球をはじめとするスポーツを通じて地域とのつながりを作る……スポーツコミュニティーという考え方の実現です。北海道にお世話になった自分が、そういう役割を担うべきだと思いました。その理念がファイターズと合致したので、これからは球団と協力する形で北海道を盛り上げていきたい」(稲葉)
(文中敬称略)
■取材・文/田中周治 撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2014年12月12日号