朝青龍が2010年2月に電撃引退してから早5年。ドルゴルスレンギーン・ダグワドルジ氏(34)は現在、モンゴルの首都ウランバートルで実業家としての日々を暮らしていた。ノンフィクションライター柳川悠二氏が現地で今の大相撲について、11月のある日にインタビューした。
──たびたび来日して本場所にも足を運んでいるとか。
「地方場所が多いね。現役時代にお世話になった人に会いたいから。客として見る相撲は面白い。現役力士に対してああだこうだ言わないようにしているけど、体がうずうずしちゃう。“こういう体の鍛え方をしたら最後、土俵際で残れる”とか“この力士はまわしが取れるようになったら強くなるのに”とか。私は相撲界の博士だからね」
──昨晩は、遊牧民族出身の逸ノ城が白鵬に挑んだ一番に憤っていた。
「うん、逸ノ城に対してね。横綱と初対戦だった9月場所と同じ、あっさりした負け方をした。私が丸関(武蔵丸)と初めてやった時は、思いっきりぶつかって、横綱の壁はどんなもんだろうか感じようとした。
勝てる相撲は、2回目の対戦から考えた。横綱に勝つ方法を寝ている間もずっと考えていた。そういった闘志が彼には感じられなかった。『逸ノ城くん、何やってんだい?』と言いたい」
──ただ、彼は21歳で、初土俵からわずか6場所目ですよ。
「関係ないよ。実力があるから、上位で戦っているんだから。これからの世代の力士には、死ぬ気で努力して欲しい」
インタビュー中、彼のオフィスには大相撲中継が流れていた。11月場所で、モンゴルの後輩である白鵬は大横綱・大鵬の持つ歴代最多優勝回数の32に並んだ。「32」という数字は、朝青龍も目指した数字のはずだ。角界に未練を残す朝青龍は、後輩の快挙を素直に喜べるのだろうか。
「白鵬については、まず私の目標としていた千代の富士さんの31回に肩を並べた。それだけですごいことで、既に大横綱。素直にうれしいよ。私も20回までは若さと稽古の力だけでいけた。25回優勝したあとに、ケガがあり、そして出たら目なことが起こって、32回の優勝を断念することになった」
──本音は、悔しいでしょ?
「しょうがないよ!! 悔しいとかああだこうだというのはない!」
※SAPIO2015年1月号