解禁されたネット選挙の「徒花(あだばな)」と片付けるには悪質すぎる。
「アストロターフィング」という宣伝用語がある。特定の団体や組織が意図をもって「人工芝(アストロターフ)」を植え、市民の自発的な「草の根運動」に見せかける手法を指す。総選挙公示直前にネット上で突如沸き起こった「白票運動」は、まさにタチの悪い人工芝運動だろう。
呼びかけているのは「日本未来ネットワーク」なる組織。だが、ホームページに事務局の所在地や電話番号はなく、政治団体やNGOの登録にもその名は確認できない。
訴えの主旨は「投票したい候補がいなくても棄権せず、その思いを白票に込めよう」というものだが、「白票」は投票率にカウントされるものの、当選者を決定する効果は棄権と変わらない。結果的に自民党や公明党など特定の支持基盤を持つ政党を利するだけで、さらにいえば当選した候補者や勝利政党に“高投票率で信任された”と主張させる根拠まで与えかねない。
“芝”を植えたのは誰か。野党各党はホームページのドメインや記載されたメールアドレス辿って“首謀者”の割り出しを試みたものの「確たる証拠は掴なかった」(民主党選対関係者)という。そんな中、政界関係者の間で取り沙汰されたのは「あの政党」だった。
「今年1月にフランスで開催された国際漫画祭に、『論破プロジェクト』という団体が従軍慰安婦を否定する内容の作品を持ち込み、主催者に撤去される騒動が起きた。この団体は幸福の科学から支援を受けているが、『日本未来ネットワーク』のホームページにある漫画の作風や作画技術が『論破プロジェクト』の作品と酷似していた。幸福実現党と関係があるのでは」(野党関係者)
幸福実現党は確固たる支持母体(幸福の科学)を持つから、「白票」が増えれば相対的に有利に働くとはいえそうだ。だが、幸福実現党にぶつけると「全く関係がありません。わが党では積極的な投票を呼びかけている」(党広報)と強く否定した。
興味深いのは、「同サイトには当初、『2大政党が競い合うより、安定した与党による政治が続くほうが日本には合っている』という主旨が掲載されていたが、間もなくして消えた」(ITジャーナリスト)という情報だ。削除された経緯は不明だが、基礎票を持つ自公政権を勝たせようという意図が見え隠れする。
賢明な有権者は2000年の総選挙直前に森喜朗・首相(当時)が吐いた「無党派層は寝ていてくれ」の暴言を覚えているだろう。顔の見えない「白票運動」は、それと何ら変わらない。
※週刊ポスト2014年12月19日号