GP(グランプリ)シリーズ中国杯での「血染めのリンク」から約1か月。フィギュア界のエースは、手負いの体に鞭打ってGPファイナルに臨む。しかし羽生結弦はまだ20歳になったばかり。スケート人生はまだ長く続く。ここで無理する必要はないのではないかと複雑な心境なのがファンの本音だろう。
11日にスペイン・バルセロナで行われるGPファイナルは世界各地で行なわれるGPシリーズ6試合のポイント上位6選手だけが出場できる。世界トップクラスの選手しか出場できず、日本ではテレビ中継もある。だが、スケート界での見方は興味深い。少なくともケガを押してまで出場するほどの大会ではないという評価が少なくない。
「4年に1度の五輪が最高峰で、次が世界選手権。GPシリーズで勝っても、(選手の世界ランキングを左右する)獲得ポイントは少なく、世界選手権を盛り上げるための興行でしかありません。GPシリーズで騒いでいるのは日本ぐらいのもの。
若い選手はどんどん出場してアピールする必要があるが、金メダリストの羽生が全力を傾けるような大会ではない。例えばキム・ヨナは世界選手権だけに出場して、GPには見向きもしなかった。そもそも五輪王者は次のシーズンを休養や新プログラムの練習にあてるケースも多い」(スケート界関係者)
にもかかわらず、なぜ羽生は出なくてはならなかったのか。その周囲には「強行出場」に向けた包囲網が敷かれていた。スケート界ならではの大人の事情である。
現在、世界のスケート界は日本が支えているといっても過言ではない。国際スケート連盟(ISU)のスポンサーの大半は日本企業で、例えば今年の世界選手権では12社中9社を占めている。ISUにとって日本は大事なお得意様だ。大会の放映権料とリンクサイドに出す広告の料金はISUに支払われるため、ISUは世界的に見てもフィギュア人気の高い日本を重視し、多くの国際大会の開催を決めている。
その大会が盛り上がらなければ意味はない。そこでキーマンとなるのが、日本のエースに成長した羽生だ。
羽生はテレビ中継の視聴率を大きく左右する。NHK杯の平均視聴率(関東地区・ビデオリサーチ調べ)は、11月28日のSPが17.7%、29日のフリーは19.1%を記録したが、22.4%という瞬間最高視聴率を記録したのは28日、羽生が演技を終えた直後だった。
「羽生が出ないとなると都合が悪い関係者は多い。高い放映権料を払っている日本のテレビ局にとっては死活問題です。スポンサーへの顔向けもできません。日本スケート連盟としても自分たちの取り分となるチケット収入に大きく関わります。羽生が欠場となると、観客動員が鈍るのは容易に想像できますからね」(同前)
また日本スケート連盟は、選手のスポンサー契約料、CM出演料はもちろん、アイスショー出演料の一部も懐に入る。大会に出場できない羽生がアイスショーに出るわけにはいかない。羽生が出場するかどうかは、自分たちの収益に関わってくる。
※週刊ポスト2014年12月19日号