安倍晋三首相は「アベノミクス選挙」を争点に掲げ、朝日新聞は「争点を決めるのは有権者だ」と反論した。どちらも違う。総選挙で問われるべき争点は、現政権が「国民との契約=公約」の実現のためにどこまで取り組んだか、である。
2年前の前回総選挙では時の民主党政権が「増税はしない」という約束を破り消費増税に走ったことで有権者に鉄槌を下された。では、安倍政権はどうか。
前回、自民党は〈日本を、取り戻す〉と掲げて「復興と防災」「経済成長」から「憲法・国のかたち」まで12分野、328項目の公約集(J-ファイル)を発表した。公明党も「日本再建」を看板に93項目の衆院選重点政策(マニフェスト2012)を有権者に示した。
本誌は両党の全政策の達成度を点検し、「実施=○」「途上=△」「評価に値せず=×」「公約に反する=★」のマークをつけた。結果は自民党が公約達成度7.6%(328項目中実現は25)、公明党は7.5%(93項目中実現は7)に過ぎなかった。2年での解散だったために△が多くなるのは仕方ないが、とても有権者に威張れる成績ではない。
特に自民党の「外交・安全保障」分野(全39項目)の達成度は○:1、△:23、×:12、★:3とボロボロだ。
靖国参拝を米国に批判されて「強固な日米同盟の再構築」は達成できず、「北朝鮮の核開発の阻止」も絶望的だ。「拉致問題の解決」は、先に経済制裁を部分解除しただけで、肝心の拉致交渉は一歩も前進していない。譲歩しただけの外交失敗だ。
さらに「自由で豊かで安定したアジアの実現」「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉に反対します」という公約も現実の対応は逆だ。かつての民主党同様、有権者を騙したと断じてよい。
国民生活に直結する「社会保障・財政・税制」分野(全47項目)も公約破りのオンパレードで厳しい評価が続く。○:1、△:26、×:15、★:5となった。
「若者も高齢者も安心できる年金制度の確立」を約束しながら、実際は保険料を引き上げ、将来の年金受給額が最大8割カットとなるマクロ経済スライドを発動する。介護保険も「保険料の抑制」の公約とは逆にどんどん上がっている。
財政・税制の公約では「民主党政権のバラマキ施策で水膨れした歳出について徹底した削減」をすると約束しながら、増税のカネを公共事業でゼネコンにバラ撒き、財政は悪化の一途だ。
「国債市場の安定を確保」という公約も守れずに、ムーディーズに日本国債の格付けを中国、韓国以下に引き下げられた。
自民党の公約には「国・地方の公務員人件費2兆円削減」とあるが、安倍政権はこの春から公務員と国会議員の給与を大幅にアップさせ、「天下り根絶」の公約も反故(ほご)にして次々に天下りポストを復活させた。「国会議員定数の削減」も全くやる気がない。
※週刊ポスト2014年12月19日号