世界中からトップ選手を集め、拡大戦略をひた走るMLB(メジャーリーグベースボール)と、その波に飲み込まれるNPB(セ、パ12球団を傘下に持つ日本野球機構)──外資系企業のビジネスマンであり、MLBに詳しい著者が、ビジネスという視点から両者を比較したのが『ビジネスマンの 視点で見る MLBとNPB』(豊浦彰太郎著/彩流社/1800円+税)だ。
かつて読売巨人軍球団代表兼GMとして球団経営に関わったジャーナリストの清武英利氏は、本書の指摘をどう読むか。
──著者は、日本のプロ野球経営者は「球団経営は儲からない」と最初から考えているように見える、と批判しています。
清武:利益が出るのが主催試合の日だけなら、試合数を増やせばいい、というのが著者の主張ですね。私も、それが普通のビジネス感覚だと思います。しかし、選手会や一部球団の反対もあって簡単には増やせないんです。
試合数が多いためピッチャーでなくても休養日があるメジャーのように、日本でも増やした分の試合には別の選手が出て、レギュラーは休めばいいんです。ところが、日本のトップスターの人たちは全試合に出るつもりでいる。で、試合数が増えて年俸が同じだったら、労働強化にすぎないと考える。より多くの選手を抱えたくない球団も試合数を増やすことに賛成しないんですね。
──選手を評価するシステム面でも遅れているとよく指摘されますよね。
清武:ベースボール・オペレーション・システム(選手の能力を多角的に数値化するシステム。合理的な評価が可能となる)の導入もそうですよ。アメリカでは当たり前になっていますが、日本ではまだ日本ハム、巨人、ソフトバンクなど数球団しか使いこなせていないんじゃないですか。
あれを導入すると、コーチやスカウトの仕事の仕方が一変します。従来は感覚的に「この選手は凄い」などと感心し、そのあと飲みに行けたけど、あのシステムを入れると毎日データを入力しなければなりません。
──ビジネス面で、改善すべきポイントはいくらでもある?
清武:そう、そう。プロ野球は予算イコール決算と言われるんですよ。予算を立てる段階で、放映権料、広告料、年間指定席券の売り上げはほぼ決まっていて、その他の席の売り上げもおよその見当がつく。
予算に入ってこない要素は、クライマックスシリーズぐらいです(日本シリーズはNPB主催)。売り上げが保証されているという意味では楽ちんな“村の商売”なんです。そして、村に新しい住民はなかなか入ってこない。みんなでずっとぬるま湯に浸かってきたんです。しかし、その湯はどんどん冷めていて、新しいことをやらないと冷める一方なんですよ。
インタビュー・文■鈴木洋史
※SAPIO2015年1月号