読売巨人軍の日本一9連覇が始まった1965年、エースとして巨人を牽引したのが中村稔氏である。川上哲治監督就任前から巨人に在籍し、V9後まで長きにわたってチームを見続けた。昔ながらの野球人らしく豪放磊落な右腕が見た、V9初年度となる年に国鉄から移籍してきた400勝投手・カネやんこと金田正一氏の様子を、中村氏が振り返り語った。
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キャンプでカネさんはいつもマスコミに囲まれていた。あの大投手が汗をたくさんかいて、ユニフォームが泥だらけになるほど練習するというので話題になりました。でもあれは「スタンドプレー」です(笑い)。僕なんかもっと厳しい練習をしていたから、楽しているなァと思って見ていましたよ。
カネさんはノックを受けるとき、ボールに飛びついてはバタンと倒れ込む。ノックは捕った後に踏ん張らないと筋力が鍛えられないから意味がないんだけど、地面に転がるもんだからすぐにユニフォームが泥だらけになる。そりゃすごく練習しているように見えるわけです。ミネラルウォーターをたくさん飲むから汗もびっしょりかくしね。これをマスコミが猛練習と書き立てるから、そういう“伝説”ができちゃったんじゃないかな。
チームでもあの人だけ特別扱いで、1人だけ自由練習して、終わったらサッと帰っちゃうんだから。だから、カネさんにだけは絶対負けたくないと思いましたね。全体練習が終わって他の連中が帰った後も、球場裏のトラックを土井(正三)や末次(利光)ら若手と一緒に走ったものです。
結果、この年は早々にヒジ痛などで戦線離脱したカネさんが11勝(6敗)だったのに対し、僕は20勝(4敗)を挙げた。その意味じゃ、僕もカネさんに影響を受けた1人かもしれないですね(笑い)。
※週刊ポスト2014年12月19日号