フィギュアスケートのGP(グランプリ)シリーズ中国杯での負傷から間もないなかでGPファイナルに出場する羽生結弦(20)には賛否両論ある。
羽生のコーチのブライアン・オーサー氏は毎日新聞(12月2日付)のインタビューのなかで、自身のスケーターとしての経験を踏まえながら、こう代弁している。
「私でも出たと思う。チャンピオンになるタイプの選手は自分が競うことができると感じれば絶対に出る」
「彼にとっては、再度競技に臨むことが大事だった。それをしないと恐怖が長引く。『落馬しても馬に乗る』ことが大事」
スポーツ心理学者で追手門学院大学客員教授の児玉光雄氏も同じ意見だ。
「特に危険を伴う競技の場合、長期間離れるとなかなか戻れないという原則がある。たとえばジャンプ競技で転倒した時などは、できるだけ早く復帰しないと恐怖心がどんどん大きくなって、時間がかかってしまう場合がある。
荒療治ですが、スポーツ心理学では“できるだけ早く復帰するほうが、リカバリーが早い”といわれています。もちろん競技ができる状態にあったか否かも重要なポイントですが、羽生君は正解だったのではないでしょうか。あれがなければ、次のステップに進めなかったと思います」
しかし、まったく逆の見方をするフィギュアスケート指導者もいる。
「万全でないまま試合に出てジャンプなどを失敗すると、失敗のイメージが頭と体にしみついてしまう。ケガが治った後でも、練習ではうまくいくのに本番になると転倒してしまう。いわゆる“失敗癖”というやつです。それに痛みがないからといって無理をすると、体のバランスが崩れ、後々大きなダメージが残るのも怖い」
NHK杯の後、世間はもうケガの影響がないかのごとく、GPファイナル出場を喜んでいる。しかしNHK杯からたった2週間、大ケガを負ってからもまだ1か月しか経っていない。万全のパフォーマンスができると思うほうがおかしい。
落馬しても馬に乗るのは、たしかに立派なことだ。だが無理して馬に乗り、選手生命を危うくする騎手がほめられないのも当然だ。羽生のプライドと強い意志には敬意を表するが、それでもあえて休む勇気が必要だと進言する者がいてもいい。
※週刊ポスト2014年12月19日号