バラエティーにやや復調傾向が見られるもののドラマは依然低迷しているTBSテレビ。その一方で、同じ社内にあるTBSラジオは絶好調だ。
10月に行われた首都圏ラジオの個人聴取率調査で、13年4か月連続1位を記録したのだ。2001年にトップに立って以来、FMラジオを含め全局の頂点に君臨し続ける強さはどこからきているのだろうか? その秘密を探った。
10月度の最高聴取率番組ランキングベスト10を見てみると、TBSラジオの番組は7番組もランクインしている(同率で他局の番組含む)。さらに極めて特徴的なのは、朝から昼の1時までに放送されている番組が6番組もあることだ。
「テレビで言うところのゴールデンタイムは夜7時から10時までですが、ラジオが一番聴かれているのは日中なんです。これは、ラジオが通勤・通学・家事など、1日で一番忙しい朝のながら行動に適しているメディアだからとも言えます」(芸能ライター)
そう言えばNHK朝の連続テレビ小説、いわゆる朝ドラも、朝の忙しい時間帯に放送されるため、音だけ聞いていてもストーリーがわかるくらいの放送作りをしていると聞いたことがある。いずれにしてもTBSラジオは朝の時間帯を制したことが、多くのリスナー獲得につながったと言えそうだ。
ランキングには他局の朝の番組もいくつか、同率ながらランクインしている。その中にあっても、TBSラジオの朝の番組が特に支持されている理由は何なのだろうか。
その秘密のひとつは、時間をかけてパーソナリティーを育て、番組をも育てるTBSラジオの編成方針にあるようだ。例えば、『生島ヒロシのおはよう一直線』は放送開始から16年、『森本毅郎・スタンバイ!』は同じくスタートしてから24年、『大沢悠里のゆうゆうワイド』は28年、『荒川強啓 デイ・キャッチ!』は19年、『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』は23年と非常に長い。
「日本テレビが視聴習慣を大事にし、個々の番組で修正を加えていくのと同様、TBSラジオも一度番組を立ち上げたら我慢をし、長い時間をかけて番組の質を上げ続けることを念頭に置いていると言います。対照的にニッポン放送は、人気がある時しかパーソナリティーとして使わないという、ある意味リスナーのニーズに徹底して合わせる手法を取るとも言われ、一部で『いいときだけのニッポン放送』とも揶揄されることもあるのです」(ラジオに詳しいライター)
さらなるTBSラジオの戦法が、裏番組をじわじわと追い詰め、裏番組の終了に伴って行き場を失った固定リスナーをとりこぼさずにファンにするというものだ。
「80年代、平日の朝の人気No.1番組は、“1週間のごぶさたでした”の名台詞で有名だった昭和の名司会者・玉置宏がパーソナリティーを務めていた『玉置宏の笑顔でこんにちは!』(ニッポン放送)でした。その裏のTBSラジオ『大沢悠里のゆうゆうワイド』は今でさえ大人気ですが、当時は後塵を拝していたのです。ちなみに1989年12月の聴取率調査では『笑顔でこんにちは!』が聴取率4.0%で全番組1位、対して『ゆうゆうワイド』が3.6%で2位と、『ゆうゆうワイド』は0.4ポイント負けていた。
しかし1996年、『笑顔』が18年の歴史に幕を閉じると、『ゆうゆうワイド』にリスナーが流れるという現象が起きたと言われています。その証拠に、それ以降『ゆうゆう』は全局全番組1位を連続奪取していくことになったのです」(芸能ライター)
人気のテレビ番組がいきなり打ち切られると、行き場を失った固定視聴者が裏番組を見始めることがあるというが、それはラジオも同じ。しかも、玉置宏同様、爽やかな語り口の大沢悠里は、「玉ロス」のリスナーを取りこむことに成功したのだ。
この「とりこむ」というやり方は、深夜番組においても言える。かつてお笑いタレントの登竜門とも呼ばれたニッポン放送の人気番組『オールナイトニッポン』がパーソナリティーとしてミュージシャンを投入しつつある中、TBSは真裏で『JUNK』という枠を新設、伊集院光や爆笑問題などお笑い芸人を起用し、若者の「お笑い需要」を逃さなかった。2012年の聴取率調査で、『JUNK』が『ANN』を抜いて全曜日1位になったのはラジオ界においても象徴的な事件だった。
結論としては、テレビに比べてザッビングの少ないラジオにおいて、1日の始まりである朝の番組に力を入れ、それ以降の「縦ライン」聴取をしてもらうこと。そして、一度起用したパーソナリティーをじっくり育てて、リスナーとともに年を重ねてもらうこと。この当たり前と言えば当たり前かもしれない編成方針がTBSラジオへの信頼を生み、支持を広げるきっかけになっているのではないだろうか。