今年4月、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会合同で、独自に健康診断での正常血圧の基準値を発表し、収縮期血圧147mmHg、拡張期血圧は94mmHgまでとしたことが大いに話題になった。とはいえ日本を含め、世界的にも高血圧の基準は140/90mmHg以上であり、これを超えると脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まるといわれる。
治療は、まずは減塩やダイエット、運動療法などを行なうが、コントロールが難しい場合は降圧剤を服用する。近年、1日1回の服用で効果が得られる薬が主流になっており、患者の負担が軽くなっている。
東京女子医科大学東医療センター内科の渡辺尚彦医師に話を聞いた。
「服用が1日1回になり、飲み忘れや煩わしさは減りました。しかし、問題はいつ服用するかです。1989年のこと、ある患者さんは降圧剤を朝食後に服用すると日中はいいのですが、夜に血圧が上がります。そこで昼食後に服用してみたところ、午前中は少し上がりましたが、夜はコントロールされました。どうも患者さんによって最適な服用時間があるらしい、ということがわかりました」
20年ほど前から、世界的に降圧剤の「時間療法」がいわれはじめ、海外で朝食後と夕食後の服用効果を調べる研究が始まった。そこで渡辺医師は、他の時間に投与したらどうか39~82歳までの高血圧症患者30人を対象に調べた。腕に24時間血圧計を装着し、30分ごとに自動計測する。
服用は起床時、起床から3時間後、6時間後、9時間後、12時間後、15時間後、就寝時の7回に設定。検査はまず、1週間起床時に服用し、その翌週は起床3時間後というように、7週間かけて血圧変化を見た。その結果、収縮期血圧の平均値を見ると、8人が起床時の服用で最大降圧効果が得られた。また、別の8人は起床3時間後の服用で、最大降圧効果が得られ、他の3人が起床9時間後に一番効果があるなど人によって違った。
「血圧は塩分摂取の影響が大きいので、同時に塩分摂取量も記録しています。その影響を差し引いても、個人によって服用時間にばらつきがありました。ある方は起床12時間後と15時間後に服用すると、31mmHgも血圧が下がるのに、起床3時間後と6時間後の服用では、血圧が十分に下がりませんでした。逆のパターンの方もいます。降圧剤の最適な服用時間は、調べてみないとわかりません」(渡辺医師)
作用機序が違う降圧剤に変えて同じ患者でもう一度、実施されたが、同じような結果となった。降圧剤は服用時間によって効果が出ないばかりか、かえって血圧が上昇することもある。患者個人にとって至適(してき)な服用時間で治療する、テーラーメード医療である「時間療法」の普及が望まれる。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年12 月19日号