2014年11月、北京で開かれたAPEC首脳会議と時を同じくして、中国南部では「珠海エアショー」が開催された。現地で取材したフォトジャーナリストの渡辺英雄氏が、中国空軍の最新”国産ステルス戦闘機”「殲31」の公での初飛行の模様をレポートする。
「珠海エアショー」は中国最大規模の航空ショー。マカオに隣接する広東省珠海市で2年に一度開かれる。中国の航空・軍需メーカーが一堂に会するこのイベントは今回で10回目だ。
開催前から噂されていた中国空軍の戦闘機「殲31」の初披露は、ショーの一般公開に先駆け、関係者向けのプレビュー初日(11日)、事前予告なしで実施された。その日はちょうど中国空軍創立65周年の記念日にあたる。
「殲31」は中国が開発した、ステルス性能を持つ最新戦闘機とされる。先行して開発が進む大型ステルス「殲20」(2011年にテスト飛行)や、艦上戦闘機「殲15」(2009年にテスト飛行)を追い越しての正式公開となった。
「殲31」が注目されるのには理由がある。自衛隊も導入を予定している米空軍の最新鋭ステルス機「F-35」のデザイン、飛行性能など極秘の設計情報をサイバー攻撃により米国から盗んで開発したとされているからだ。
実物は、上面から見ると翼の形状、配置が「F-35」と確かにそっくり。ただし、本家がより高性能の単発エンジンを搭載しているのに、「殲31」は双発エンジンを採用して機体もひとまわり大きいようだ。中国の航空工業力では単発で推力を稼げるエンジンが開発できなかったと思われる。しかも、搭載された双発エンジンはロシア製クリモフRD-93のコピーである。
さらに、「殲31」の機体は細く、搭載できるミサイルは小型の空対空ミサイル4本がせいぜい。地上攻撃用のミサイルを装備すると機体からはみ出してしまい、それだけでステルス性が激減してしまう。これでは制空戦闘に用途が限られ、「F-35」のようなマルチロールミッション(対地攻撃を兼ねるなど複数の用途での運用)は不可能だ。
デモ飛行中の姿を見ても、やっと飛んでいるといった印象が拭えない。推力を上げると黒煙が噴き出し、30年前のジェット戦闘機同様に黒い筋を空に描く有様で、速度も出ていなかった。上空で旋回して背面飛行を行ない、わずか3~4分で着陸して終わったデモ飛行。外観は米国のステルスを模倣しているからもっともらしく見えるが、エンジン一つとっても、まだまだ実戦配備できる段階にはないことがわかる。
屋内展示場には同機のコックピットも堂々と公開されていたが、ハリボテの模型に単なるディスプレイを置いたもので、計器盤の配置はほぼ、ロシアの最新鋭戦闘機「スホーイSu-35」と同様だった。
※SAPIO2015年1月号