第3次安倍晋三政権がスタートする。本稿は投開票日前に執筆しているが、与党圧勝が確実な情勢である。アベノミクスは信認されたとはいえ、まだ道半ばだ。とりわけ農業、医療と並んで岩盤規制といわれる雇用分野の規制改革は、これからが本番である。
政策の中身に入る前に、選挙戦で野党が声高に指摘した非正規雇用の現状について確認しておきたい。野党は「非正規が雇用の4割を占めるのは異常」と唱えて、あたかも非正規=悪といったイメージをまき散らしたが、実態はどうなのか。
総務省は非正規雇用者(総数1952万人)を対象に「なぜ非正規を選んだか」アンケート調査している。それによると「自分に都合のよい時間に働きたいから」という回答が全体の25.4%でトップを占めた。
次に「家計の補助・学費等を得たいから」が20.6%、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」が12.2%、「専門的な技能等をいかせるから」が8.6%、「通勤時間が短いから」が3.7%だ。以上で全体の7割である。
「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由はどれくらいかといえば、実は17.1%にすぎない。
非正規雇用者のうち転職希望者は22.9%に過ぎず、そのうち「正規の仕事がないから」非正規に就いていて転職希望となると148万人、全体の7.6%にとどまっている(2014年7~9月期平均)。
これらの数字が示しているのは、非正規雇用の大部分は自己都合であり「本当は正規で働きたい」という人は世間が思うほど多くはない、という現実である。
安倍政権は2014年度に従来の雇用調整助成金を半額以下に減らした代わりに、労働移動支援助成金を150倍以上に増やした。前者は一時的にリストラせざるを得なくなった事業主が雇用を維持した場合に支給するのに対して、後者は社員の再就職を支援した場合に支給する制度だ。
どちらが前向きかといえば、後者である。
左翼勢力は正社員の首切り反対一辺倒だった。非正規が増えたのは、その反動だ。この2年間で就業者は増え、失業は減った。次はフレックスタイム制など多様さの拡大、成果主義の導入、それに同一労働・同一賃金の確保が課題である。
■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2014年12月26日号