総距離217.1km、10人のランナーが1日がかりで襷をつなぐ新春恒例の箱根駅伝では、近年、天下の険を駆け上がる「山登りの5区」が最重要区間になっている。2006年の第82回大会で5区の距離が延長され、「花の2区」を超える最長区間となって以来、前回までの9大会のうち、5区で区間賞を取ったチームの総合優勝は6回を数える。スポーツライターの酒井政人氏が解説する。
「以前はエースが競い合う2区の結果が重視されていたが、2006年以降に2区で区間賞を取ったチームが優勝したことはない。代わって距離が伸びてタイム差のつきやすい5区で勝負する大学が増え、山登りで作った貯金と勢いで復路も逃げ切るのが勝利の方程式になっている。前回、東洋大が3年連続で2区を走っていた4年生エースの設楽啓太を5区にサプライズ起用し、区間賞の走りでチームを総合優勝に導いたのは象徴的だった」
標高差864mを駆け上がる5 区は「山の神」と呼ばれた柏原竜二(東洋大→富士通)をはじめとするスターを生んできた。今回も各校が登りのスペシャリストやエース級を投入する。本稿執筆時点で各校の選手オーダーは未定だが(12月29日発表予定)、5区のエントリーが有力視される選手の中で注目されているのが早稲田大学の山本修平(4年)だ。
「前回はケガで欠場しましたが1年、2年の時に5区を走っていずれも区間3位と登りの適性が高い。箱根ランナーには珍しい大学浪人経験者で、今回はキャプテンとしてチームを引っ張っている。
一方、優勝候補筆頭の駒澤大は前回区間3位だった馬場翔大(3年)を起用して区間賞を狙わせるだろう。山梨学院大も2年連続でエース級の井上大仁(4年)を投入すると考えられる。この3人は今まで柏原、今井正人(順天堂大→トヨタ自動車九州)の2人しか成し遂げたことがない1時間19分切りを狙う実力がある」(酒井氏)
有力選手のいる3校が4区までにどのような位置関係になるかが第1の勝負ポイントとなる。
一方、前回覇者の東洋大はメンバーに5区経験者が残っていない。前回のように2区を好走したエース・服部勇馬(3年)を5区に持ってくる奇策があるのか、まずは区間エントリー発表に注目したい。また優勝候補の一角、青山学院大では前回1年生ながら1区で好走し、今季も自己ベスト更新を続ける一色恭志(2年)が5区を希望しているとの情報がある。
区間賞争いでは日本大のダニエル・キトニー(3年)もいる。前回は5区を走り区間10位。ケニア人留学生は温度変化に弱く山登りには不向きといわれてきたが、
「今回も5区志願で、1時間16分台という柏原クラスの目標タイム設定だと聞く。1万メートルの持ちタイムからすれば不可能な数字ではない」(同前)
と雪辱を期している。
※週刊ポスト2015年1月1・9日号