周囲に聞けば、一人や二人は親兄弟と揉めている人はすぐに見つかるだろう。きっかけは些細なことでも、こじれるのが家族。しかし、実際に“縁を切る”となると、どうすればいいのだろうか。
法律で対処する際、考えらえるひとつの方法が相続だ。 実際、親族間で多いのが遺産をめぐる相続争いで、5000万円以下の遺産をめぐる相続争いの件数がこの10年で5割増え、今年の1~9月に解決した相続争いのうち約8割を占めている。東京都に住む主婦・Aさん(42歳)のように、簡単に分割できない土地と自宅のみで、遺産がない家ほど、遺言書などが用意されていないため揉めるのだ。
では、相続の際にうまく「縁を切る」ことは可能なのか。亡くなった人が残した遺産を家族が受け取る際、民法によって相続人の範囲や順位、法定相続分は定められている。遺言書があれば、それを変更することは可能だが、「遺留分」は発生する。相続をさせない方法を、前出・広瀬弁護士が説明する。
「民法892条に基づいて、被相続人が推定相続人(相続が発生した場合に相続人になる人)を家庭裁判所に申し立て、あるいは遺言によって『廃除』することは可能です。ただし、遺留分がある相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱を加えたり、相続人自身に著しい非行などがあった場合です」
2008年、神戸家庭裁判所伊丹支部は、20年にわたりギャンブルで借財を重ね、被相続人に2000万円の経済的な負担と債権者への対応など“多大な精神的苦痛を負わせた行為は著しい非行にあたる”として、廃除を認めた。しかし、「相続人の廃除は、被相続人の主観的、恣意的なものであってはならない」という高裁の判例もあり、そのハードルは高い。
「実際に相続で対立関係になる前に、きちんと話し合っておくことが重要です。例えば、相続開始前(被相続人の生前)に、推定相続人に遺留分の放棄を家裁に申し立ててもらう。遺留分の放棄は、相続人の自由意志で行なわれ、合理性があれば事前でも可能です。
その際、なにがしかの代償を放棄した人に与える。例えば金銭を贈与するなどして、放棄に納得してもらうことが必要です。そのうえで、被相続人が誰に財産を残すのか、きちんと遺言書を作成してもらうのがいいでしょう」(広瀬さん)
ドライなようだが、揉めて縁を切るより、最初から法的に「縁を整理しておく」ほうがいいのかもしれない。
※SAPIO2015年1月号