天皇家のお正月といえば一般参賀が有名だが、それ以外にも私たちが普段目にすることのない祭祀・儀式が目白押し。日本一忙しいお正月を過ごされているといっても過言ではない。
早朝5時30分。薄暗く、凍てつく寒さのなか、「黄櫨染御袍」(こうろぜんのごほう)という装束をお召しになった天皇陛下が、御所から約400m離れた宮中三殿の西側にある神嘉殿の前庭にお出ましになる。
かがり火に照らされた地面に畳を敷き、屏風に囲まれた場所で、南西に向かって伊勢神宮を遥拝し、次いで東南西北の順に四方の神々に拝礼される。天皇陛下のお正月は、この「四方拝」という祭祀から始まる。
「平安時代初期から続けられ、五穀豊穣や国民国家の安寧を祈願されています。現在は天皇陛下のご負担軽減のため簡略化されることもありますが、元日はその後もさまざまな儀式が分刻みのスケジュールで行われるためご負担は大きい。天皇家のお正月は、のんびりと過ごす一般人の正月とはまったく異なります」(皇室ジャーナリストの神田秀一さん)
四方拝の後、天皇陛下は、宮中三殿の賢所(かしこどころ)、皇霊殿、神殿にそれぞれ祀られている天照大神や歴代天皇・皇后・皇族の御霊、八百万の神々を拝礼する「歳旦祭」(さいたんさい)に臨まれる(2012年から、宮中祭祀を担当する掌典(しょうてん)次長による代拝)。
そして3日には、成人以上のすべての皇族がたが参列して「元始祭」が行われる。いずれも天皇陛下が中心となり、正座と起立を繰り返して祈りをささげる「両段再拝」や、賢所に設置されている鈴を掌典職が91回鳴らす「御鈴の儀」などが行われる。これらは新年最初のお参りといえるかもしれないが、
「ここで祈られるのは、国家国民の安寧。一般人のように家族の健康や合格祈願など、私的なことを祈るのとは中身が違いますから、初詣とは少し意味合いが異なります」(皇室ジャーナリスト・久能靖さん)
歳旦祭の後も、行事が目白押しだ。
「9時45分から始まる『新年祝賀の儀』は、両陛下がお揃いで皇族や元皇族、内閣総理大臣、閣僚、最高裁判所長官、宮内庁職員などから新年の挨拶をお受けになる儀式。
宮殿の松の間、竹の間、鳳凰の間など、参列者が待機している部屋を次々に回られる。数時間もの間、両陛下は立ちっぱなしです」(久能さん)
新年祝賀の儀は午後まで続き、各国の駐在大使公使夫妻と挨拶を交わす。元日だけでお祝いを受ける人数は計686名に及ぶ(2013年)。
「朝は4時半には起きられてこれだけのスケジュールをこなされるのですから、お体へのご負担はかなりのものだと思います」(神田さん)
※女性セブン2015年1月8・15日号