毎回、評者に1人1冊を選んでもらう書評コーナー。今回は年末年始に合わせ3冊の本をピックアップしてもらった。評論家の川本三郎氏が「また旅に出たくなる」をテーマにピックアップしたのは、以下の3冊だ。
(1)被災鉄道(芦原伸/講談社)
(2)ちいさな城下町(安西水丸/文藝春秋)
(3)東京幻風景(丸田祥三/実業之日本社)
以下、川本氏の解説。
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十四年の四月、東日本大震災で大きな被害を受けた三陸鉄道の北リアス線と南リアス線が全線開通した。大震災から三年でよくぞ復興した。東日本大震災では実は鉄道の死者は一人も出ていない。奇跡のようなこの事実はなぜありえたのか。(1)は鉄道好きの著者がその理由を知りたくて東北の鉄道を訪ねる。当日、何があったのか検証してゆく。鉄道の持つ底力に感動する。
(2)はこの三月に急逝した水丸さんの最後のエッセイ集。水丸さんは少年時代に剣道をしていたこともあって時代小説とそして城が好きだった。といっても立派な城ではない。好みの城は十万石以下。全国二十箇所の小さな城を訪ね歩く。城下町のよさを教えてくれる。
お手軽な東京散歩本が増えたなか(3)は素晴しい。廃墟、廃線を撮り続ける写真家が東京近辺の思いもかけない幻想的な風景を発見してゆく。普通の町の奥へ入るとそこに異界がある。
※週刊ポスト2015年1月1・9日号