中国の六朝時代の著名な文学者、陶淵明の手になる「桃花源記」にも書かれている桃源郷。そのモデルとされる現在の湖南省常徳市の数10キロ郊外に位置する桃源県がアルミニウム工場や火力発電所からの廃棄物によって汚染され、廃液などにまみれて見るも無惨なありさまになっている。桃源郷とは名ばかりの実態を北京紙「新京報」が報じた。
この工場は2003年4月に操業を開始したが、その後、排水が川にたれ流され、汚染物質を含む工場の排煙も公害防止用のフィルターにも通されず、何らの化学処理もされず、さらに数百トンもの固形廃棄物も川や工場から少し離れたところに山積みとなったまま放置されている。
この工場ができてから、川の下流域の住民十数人が癌によって死亡したほか、多数の住民が体調の不調を訴えるようになった。また、この地域は農村地帯だが、汚染によって、野菜や果物の生育が遅れているほか、形の歪んだものも出てきている。この地域の名物で、乾燥させたものが漢方薬として利用されるミカン科のカラタチにも影響がみられ、表面に多数のこぶができて、売り物にならなくなったという。
さらに、同じ県内にある火力発電所も廃棄物を垂れ流して放置しており作物被害がでている。また、大気汚染がひどく、子供たちの間に喘息が流行しているほどだ。
県内には桃源郷のモデルとして観光地になっている桃花源という農村があり、ここはまだそれほど汚染は進んでいないが、近隣の村々の汚染の状況が知られるにつれて、観光客も減ってきているという。事態を重く見た湖南省政府は住民らの訴えから、12月に入って被害状態を調査するとともに、工場や発電所による汚染の実態調査を開始した。
しかし、時すでに遅く、あまりのひどさに手の打ちようのない状態で、工場の行政指導を中心に対策を進める方針だが、「汚染はかなり蓄積されており、完全に環境が元に戻るのは絶望的で、省政府も途方に暮れている状態だ」と同紙は報じている。