受け継がれる伝統、家族の味。かつて当たり前だったお正月の風景も、変わりつつある。元横綱審議委員の内館牧子さん(66才)がお正月の意義を提言する。
「子供たちが、お正月からファストフード店でハンバーガーやチキンを食べさせられている光景を見るのは、やっぱり嫌ですね。お正月は黒豆や田作りを食べながら、その由来を親が子供に伝え聞かせる日。だけど親ももう、それを知らない世代になっちゃいました」
ハロウィンなどわかりやすいイベントはすぐ定着するが、わかりにくい和の伝統行事は伝承されなくなっていると嘆く。
3才まで母親の郷里、秋田市の土崎で育った。土崎では大晦日の夜が実質のお正月。県外にいる息子や娘も必ず帰省した。
「この日は“年取り”と言って、座敷に家長以下全員がずら~っと並ぶの。めいめいの前に猫足の“年取り膳”が置かれ、尾頭付きの鯛や秋田名物ハタハタの麹漬け、紅白のなますなどが載る。どこの家でも家族の行事であることを重視し、玄関にも勝手口にも鍵をかけて他人を入れない風習でした」
数えで年齢を計算していた昔は、年が改まると、全員がひとつ齢を取る。いわば元日が全員の誕生日であったことなど、伝統行事が教えてくれることは多い。
「お正月の意義を、嫌われても声高に言う人がいないとダメなんじゃないかしら」
内館さんはかつて“女は土俵に上がる必要はない”と物申し、男女同権を主張する陣営から猛反発をくらったことがある。
「結局、行事でも所作でも乱れてきているのは、その根本を知らない人が増え、伝えようとしないから。例えば大相撲で懸賞金をもらうときの白鵬の所作が不快なのは、手刀の切り方がヘンなんです。手を刀ととらえ、勝負の三神にお礼を伝える意味だと教えられていないのでしょうね。この間、逸ノ城が変化相撲で星を上げましたが、変化相撲は力士の美学に反するという根本を教えないといけない」
内館さんの元日は、家族全員で弟の家に集まる。前夜格闘技観戦で夜更かしして、朝早くから出かけるのは少し億劫でも、年に一度のこの家庭内神事をサボるとバチがあたりそうで、欠席する気にはとてもなれない。
「弟の家では9人+1匹、犬まできちんと並びます。この日だけは日本が世界に誇る伝統食を家族揃って食べるべきだと、大人が形で示さなければ。受験のお兄ちゃんは起きてこなくていいなんて、とんでもない。正月行事に子供の人権はないんです(笑い)」
※女性セブン2015年1月8・15日号