日本人がかかるがんの中で、もっとも罹患率が高いのが胃がん。毎年11万人以上が胃がんに罹患し、死亡者数は5万人以上(独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター調べ)。
今年9月、WHO(世界保健機関)は、「胃がんの主な要因はピロリ菌である」と報告。全世界の胃がんの約80%はピロリ菌によるものであり、除菌治療によって30~40%の胃がん発生を抑えられるとしたうえで、各国の保険当局に対し、
「(日本のように)ピロリ菌感染者の多い地域では、胃がん予防のため、除菌などの対策を取るように」と勧告した。
そもそもピロリ菌とはどんな菌か。同志社大学大学院・生命医科学研究科の米井嘉一教授は、こう解説する。
「ピロリ菌に感染するのは5歳以下の子供の頃です。一度感染すると自然に菌が消えることはなく、胃の細胞はピロリ菌の出す毒素によってダメージを受け続け、慢性的な胃炎が起こります。そこにストレスなどのダメージが加わると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、最悪の場合は胃がんになってしまうのです。
また、ピロリ菌がいると、加齢とともに胃粘膜が薄くなる萎縮性胃炎という状態になることもあります。こうなると、ビタミンB12やカルシウムの吸収力が弱まり、動脈硬化や認知症の原因になったり、骨が脆くなったりする危険も出てくるのです」
厚生労働省は2000年に、胃潰瘍・十二指腸潰瘍についてピロリ菌除菌治療を保険適用とした。その後、適用範囲は広がり、昨年2月には慢性胃炎も適用内に。ピロリ菌に感染していれば、ほぼ100%の確率で慢性胃炎が起きていることから、除菌治療はより身近になったことになる。
「除菌治療では、3種類の抗生物質を毎日2回、1週間続けて服用するだけ。治療そのものは非常に簡単ですが、とにかく1回目(一次除菌)で成功させることが大切です。2回目以降は、成功率が下がりますし、ピロリ菌が薬剤への耐性をつけ、抗生物質が効かなくなることもあるからです。
ピロリ菌は胃酸とともに、口腔内に上がってきて、歯垢や歯石の中に棲みつきますから、除菌治療中はていねいに歯磨きをすること。歯科でクリーニングを受けるのもよいですね。また、除菌治療の前3週間と治療中には、LG21乳酸菌を摂取すること、禁酒・禁煙も成功率の向上には有意義と考えられます」(前出・米井教授)
※週刊ポスト2015年1月1・9日号