新年を前に朴槿恵大統領に対日姿勢の緩和が見えはじめた。2015年は日韓国交正常化50周年だが、彼女は昨夏以降、50周年の意義を「新しい日韓関係の元年」にしたいとしきりに強調している。その関係改善の意欲(?)を受けた新年の日韓関係の天気予報は「雨があがり、薄日も」といったところだろうか。
朴大統領の姿勢の変化は2014年12月初めに韓国を訪れた日本の経団連訪問団との会見でもはっきりとうかがわれた。彼女はこの席で新年の50周年の意義を語った後、関係改善のハードルとして設定してきた慰安婦問題について、日本側に解決策を要求すると同時に「韓国政府も(解決のため)環境作りに努力したい」と語った。
これまで日本に対する一方的要求ばかり繰り返してきた彼女が、韓国側も努力したいと初めて姿勢を低くしたのだ。日本政府と歩調を合わせ共に解決したいというわけだ。これは大きな変化であり、これでやっと外交交渉の道が開かれたことになる。
朴槿恵大統領のこうした変化の背景について、ソウルの外交筋は2014年11月の北京でのAPEC首脳会議の影響を指摘する。一つはこれまで習近平が拒否し続けてきた日中首脳会談がついに実現し、朴槿恵の対日強硬論が浮いてしまったこと。その結果、韓国メディアは「韓国外交が孤立」と書きたてている。朴槿恵の対日意地っ張りもいい加減にしろというわけだ。
もう一つはAPEC晩餐会での安倍首相との“非公式会談”だ。これは晩餐会の席で隣同士になった両者がかなり長時間にわたって言葉を交わしたことだが、外交筋によるとお互い相当、胸襟を開きさまざまな問題について話し合ったという。事前協議のうえで議題を設定した正式会談ではなかったため、かえってお互い正直ベースの意見交換ができたという。
朴大統領がこだわる慰安婦問題では、安倍首相としては韓国側が「日本に対する法的責任追及」というハードルさえ下げれば、人道的配慮と女性の人権保護という観点ではいくらでも解決策が出せるという考えを語った可能性がある。これに対し朴大統領が「韓国も努力したい」と語ったのは、韓国側でのこのハードル調整の可能性を示唆したとみることもできる。
50周年の新年はこれまで持ち越してきた「古い懸案」の処理には絶好のタイミングだ。韓国側がそれに向け動き出そうとしていることは間違いない。
●文/黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
※SAPIO2015年2月号