この世には「報道格差」があると作家で比較文学者の小谷野敦氏は言う。インターネットのおかげで誰でもものが言えるようになったとはいえ、言えるだけで広まらない問題がある。広まるにはたとえば「美人」「有名人」という要素が必要で、これからは報道被害ではなく報道格差についての研究が必要だと、作家で比較文学者の小谷野敦氏は訴えた。
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その昔は、反論したくても場所がない、と言われ、今ではインターネットで誰でもものが言えるようになったが、今度は、発言しても報道されないと広まらないという問題が起きている。
あるいはかつて「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛めばニュースになる」と言われたが、今や「美人が中心にいればニュースになるが」とか「有名人が人を殴ればニュースになるが」の世界になってしまった。
小説を読んでいて、こんな事件がニュースになるわけないだろう、と思うことがある。ニュースは、マスコミによって選別されているのだ。
STAP細胞事件も、やや美人の女を主役に据えたところが、マスコミの注目を集めたゆえんだが、考えてみれば、すぐばれる嘘をついた事件ともいえ、いい大人が何を焦ったのかと思う。それを考えると、美人に惑わされたとすら言いうるのである。
一般人は、報道されていることがすべてだと思っているが、実際は、報道されない裁判や事件はいくらもある。マスコミ学者は、「報道被害」については研究するが、「報道格差」についてはいまだ手つかずである。
※SAPIO2015年2月号