都内在住の会社員・Sさん(仮名・45才)は、放置していた虫歯が悪化して歯科クリニックを受診した。レントゲンを見た若手の歯科医は、「これはひどい。早く抜いてインプラントにしましょう」と早口で言った。
インプラントとは、顎の骨にチタン製のフィクスチャー(ネジ)を打ち込み、その上に人工歯をのせる治療法のこと。基本的に保険がきかない自由診療で費用は1本30万~500万円と幅広い。いきなりの提案に戸惑うSさんに歯科医は畳みかけた。
「『通常は1本50万円ですが、今回は特別に値引きしますよ。40万円で処置します』と言われました。その後も、『じゃあ検査日を予約しましょうか』と一方的に話を進めるんです。私は『予約は電話でします』と言ってその場から逃げ出しました」(Sさん)
悩んだSさんは友人に相談して後日、腕がいいと評判の歯科医を訪ねた。
「初老の医師は口のなかを丁寧に診察し、『インプラントなんてとんでもない。充分、残せる歯です』と言いました。それで歯医者を変えて現在も治療を続けています。危うく最初の医師の営業トークに騙されるところでした」(Sさん)
一部の悪徳歯科医はあの手この手で治療費アップをねらう。『この歯医者がヤバい』(幻冬舎新書)の著者でサイトウ歯科医院(東京・渋谷)の斎藤正人院長の知り合いにはこんな歯科医がいる。
「初診で来た患者さんの自宅を『グーグルマップ』の航空写真で検索し、住んでいる地域や自宅の外観から患者さんの収入や暮らしぶりを推測するんです。お金持ちなら高額の自由診療を勧められますからね。彼は『小さなマンションだとガッカリだけど、一戸建てだと俄然、やる気が出るんだ』とうそぶいてますよ」(斎藤さん)
一方でこんなもの哀しいケースもある。
「とくに競争が厳しい東京や大都市近辺では歯医者が夜逃げすることがあります。歯科技工士や歯科材料問屋の営業マンが電話しても、営業時間内なのに誰もでない。不審に思って駆けつけると医院は見事にもぬけのカラです。高額の診療機器やレントゲン機器、細かな備品にいたるまで何もかもリサイクル業者に売り払い、すべての支払いを踏み倒して姿を消すんです」(斎藤さん)
※女性セブン2015年1月22日号