あでやかなブルーの着物を着こなし、扇子と手ぬぐいを手に話すのは、イギリス・リバプール出身の女性落語家・ダイアン吉日さんだ。芸名の由来は「大安吉日」。
「もともと人を笑わせるのが好き。海外にもパントマイムなど落語に似たものはあるけれど、落語は扇子と手ぬぐいだけを使う。そしてひとりで男も女も何役もこなす。これは落語にしかない魅力です」
1990年、世界中を旅してみたいとバックパッカーで各国を回る旅の途中に来日した。華道、茶道、着物などの日本文化に魅了され、そのまま日本で暮らし始めた。落語に出合ったのは来日から6年後、故・桂枝雀さんの英語落語を見たのがきっかけだった。
「桂枝雀師匠の英語の先生がたまたま私の知り合いで、落語会の『お茶子』(舞台の上で座布団を裏返したり名前が書かれた紙をめくったりする)をしてみないかと誘われたんです。そのときは全く意味がわからなくて、『オチャコ?』って感じ(笑い)。私には無理だと思ったけれど、英語の先生に『着物を着られるし、教えてあげるから』と言われてやってみました。当日、枝雀師匠の落語を見て、うわぁ、コメディーだ、面白い! って夢中になったんです」
たちまち落語の世界にひきこまれ、1998年に初舞台を踏んだ。古典から創作落語まで、英語と日本語の両方で演じるその芸風は、幅広い年代から支持されている。今では1回のイベントに1000人以上が集まることもある。
「最初は『女は落語をしない』とか『外国人に日本人の心はわからない』という声もあったけれど多くの人が応援してくれた。ただ、落語をするのにいろいろ調べるのは今でも大変。古典落語だったら、お金の単位は“文”とか“両”といった昔のことを調べないとダメです」
今では出身地のリバプールやアブダビ、米国など海外に活躍の場を広げている。また、東日本大震災の時は被災地に赴き、避難所に笑いを届けた。
「あの時は、津波で全部流されて街全体に色がなかった。私が派手な衣装で行って、落語を披露すると笑顔になる。笑いは世界共通、言語がわからなくても楽しめるんです」
落語以外にも風呂敷教室や着付け教室を開催するダイアンさん。「日本の素晴らしい文化を大切にすべき」と訴える。
「私もイギリスにいた時は隣の芝生に憧れていたけれど、外から見るとイギリスってカッコいいことがわかった。海外の文化に憧れている日本人が多いのはもったいない」
寝る時間もないくらい忙しいけれど好きなことをしているから疲れない、と笑う。今年も人々に笑いを届ける。
※女性セブン2015年1月22日号