活動初期から「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を追い続け、言動の危うさを伝えているのがジャーナリスト・安田浩一氏だ。ヘイトスピーチ批判の高まりとともに一般に認知されるようになった自称・保守系市民団体の特徴について、安田氏が解説する。
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プロレスのマイクパフォーマンスを連想した人も多かったはずだ。
「オマエみたいなのはな、許せねえって言ってんだよ!差別主義者!」「だったらやってみろよ!」
昨年10月20日におこなわれた橋下徹大阪市長と桜井誠在特会会長(当時)の「公開討論」。フタを開けてみれば罵倒の応酬に終始した。
この会談によって在特会は俄かに世間の注目を集めることとなった。これまで取材を重ねてきた私もまた、同会について尋ねられる機会が増えたが、内実が「差別主義者」の集まりであることに関しては、橋下市長に同意している。
在特会は「在日コリアンなど外国人が日本で優越的、あるいは不当な権利を得て日本社会を脅かしている」と主張することで勢力を広げてきた自称・保守系市民団体だ。
ネットの掲示板などで“同志”を募り、日韓断交、外国籍住民への生活保護支給反対、不法入国者追放などの排外主義的なメッセージを掲げ、全国各地で連日デモや街宣活動を展開している。いわゆる「ネット右翼」という“業界”にあっては、シンボリックな存在だ。
日章旗や旭日旗、ときにはハーケンクロイツの旗まで掲げ「朝鮮人を日本から叩き出せ!」「殺せ!」と聞くに堪えないヘイトスピーチを叫びながら週末の繁華街を練り歩く集団と遭遇した経験を持つ人も少なくないだろう。こうした差別デモの多くが、在特会やその関係者によるものだと考えて間違いない。
なぜそこまで醜悪な言葉を連呼しなければならないのか私はこれまでに何度もデモ参加者に問うてきたが、納得できる答えが返ってきたことはなかった。
「世間の注目を集めるため」
「ストレートな怒りをぶつけた方が説得力がある」
デモ参加者の多くはそのように口をそろえるが、要するにネット掲示板などにみられる“言いっ放し”の言語感覚を、そのまま路上へ持ち込んだに過ぎない。
彼ら彼女らにとって、デモや街宣はネットにおける“炎上”や“祭り”と同じである。他者の痛みを想像することなく平気で「殺戮」さえ示唆する在特会の「軽さ」は、しかしそれゆえに広い間口をもって多くの人間を引き込んできたこともまた事実だ。
※SAPIO2015年2月号