活動初期から「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を追い続け、言動の危うさを伝えていたのがジャーナリスト・安田浩一氏だ。ヘイトスピーチ批判の高まりや、橋下徹・大阪市長との「意見交換」という名の罵り合いなどもあり、一般に認知されるようになった同会だが、安田氏は設立以来の岐路に立っていると見る。
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2006年末、桜井誠氏を会長に担ぎ上げ、取り巻きのネット右翼が集まって結成された在特会。設立当時わずか500名だった会員は現在、1万5000人にまで増えた。いまも全国各地で毎週末、主に在日コリアンを標的とした差別デモを繰り返している。
だが、そんな在特会も、ここに来て設立以来のピンチに見舞われている。
在特会の顔として君臨してきた桜井氏が、昨年11月末に突然会長を辞任したのだ。組織の運営費をめぐるトラブルなども噂されるが、ある地方支部幹部は次のように答える。
「橋下会談などで確かに知名度は上がりましたが、同時にヘイトスピーチの代名詞のように会が世間から認識されてしまっているのが現状。そう見られることが嫌で、実は活動から離れる会員も後を絶たない。機能停止状態にある地方支部も少なくありません。
本来ならば桜井さんが軌道修正を図ればよいのですが、それでは会を支えてきた強硬派の会員が納得しないのです。そこで新しい顔を立てることによって、世間のイメージを変えていきたいといった思惑があるようです」
言い換えれば、社会的批判が在特会を追い詰めていることになる。実際、風当たりは厳しい。異様な差別デモの光景は国際社会にも波紋を呼び、2014年8月にジュネーブで開催された国連の人種差別撤廃委員会においても、日本政府は各国委員から手厳しく対応の甘さを指摘された。
さらには昨年末に発表された警察庁の『治安の回顧と展望』も、極端な排外主義を主張する団体として、初めて在特会を名指し。違法行為への懸念を指摘している。
差別デモに反対する“カウンター”の動きも在特会にダメージを与えた。昨年末に京都で行われた在特会系のデモには、35人の隊列に対して400人近くの学生や一般市民が“デモ封じ”に参加。デモ隊の主張はカウンター勢の怒声にかき消された。
また、2009年に起きた京都朝鮮学校襲撃事件(在特会メンバーらが同校に押しかけ授業妨害した事件)の民事裁判では、在特会側に約1200万円の損害賠償を求める判決が、やはり昨年末に確定した。
ヘイトスピーチの担い手として注目を集める在特会だが、もはや崖っぷちの状態にまで追い詰められているのだ。
※SAPIO2015年2月号