愛媛県・今治市で60年続く和菓子屋を継ぐ米国人のビル・リオン・グレローさん(54才)。グアムで救急救命士をしていたが、妻・智恵さんの父が倒れたことで2002年に夫婦で実家へ戻り、和菓子の世界へと飛び込んだ。
観光でグアムを訪れた智恵さんのひとめ惚れでふたりは1989年に結婚。
「15年間ずっと、グアムで暮らしました。お父さんが倒れた時に日本に帰ろうといったら、奥さんは『南国のロコボーイに日本暮らしは無理よ』と止めたけれど、国際結婚をしたぼくたちをいつも応援してくれたやさしいお父さんに、恩返しがしたかったんです」(グレローさん・以下「」内同)
幸いにも義父は大事にいたらなかった。いざ修業が始まると、普段穏やかな義父が一変。職人の流儀には、生活習慣以上にカルチャーショックを受けた。
「日本語で1回教えたらそれでおしまい。具体的なことは教えてくれないし、奥さんが通訳してくれないと何を言われているのかすらわからなかった。『今日の仕事は何ですか?』と聞いても、『ない。明日』で終わり。ぼくのことが嫌いなのかと、最初の2年間は『グアムに帰りたい』と、港で海を見て泣いていたよ」
実践で学んだことを英語で自己流にメモして、智恵さんと日々すりあわせをした。
「教わった通りにやっているつもりなのに、大福も栗まんじゅうも全然お父さんのようにできない。匁(3.75g)の単位にも苦労しました。グアムはオンスなので、匁をグラム計算して、オンスに直す。お父さんが作業しながら言う“これくらい”がわかるまで5年かかった」
愛媛特産のみかんを合わせた「まるごとみかん大福」が店の名物だが、これは2004年にビルさん夫妻が考案したもの。
「ぼくたちがアイディアを出してお父さんとお母さんに食べてもらって完成した“家族の味”です。みかんのサイズ、あんこの甘さとのバランスに苦労して、味が定着するまでに3年。どこのみかんにしようか毎年、悩んでいました」
現在も、夫婦で新商品を生み出している。
「2012年には『みかんどらやき』、2013年には『みかんカステラ』と、みかんをメインに新商品を毎年開発。新しいお菓子を生み出すのは今でも苦労します。カステラを焼くのはぼくにはまだ早いと、お父さんが教えてくれなかったからユーチューブで作り方を見たりして(笑い)。お父さんが築いた地元の人に愛されるこの店を守りたいんです」
※女性セブン2015年1月22日号