通常国会が1月26日から始まる。まずは予算案審議からだが、最大の焦点はその後に控える集団的自衛権の法制化議論だ。そこで一足先に論点を示しておきたい。
それは「日本にある米軍基地をどう考えるか」という問題である。言うまでもなく、米軍基地は北朝鮮や中国の脅威に対する抑止力(=けん制効果)になっている。基地の存在は集団的自衛権問題と裏腹の関係である。
そこで、私は元日のテレビ朝日『朝まで生テレビ!』で同席した集団的自衛権反対派の論客である孫崎享(うける)・元外務省国際情報局長に「米軍基地をどう考えるか」と尋ねてみた。すると孫崎氏は「有事駐留!」と答えた。
つまり「朝鮮半島有事の際には米軍に駐留してもらうが、平時は撤退してもらうべきだ」という考え方だ。放送では「有事駐留」としか流れていないが、後で本人に確認したから間違いない。本気でそう考えているのだ。
これには本当に驚いた。そんな話が通用すると思っているなら、戦略家どころか夢想家としか言いようがない。
平時に独力で抑止力を維持しようと思ったら、日本は少なくともいまの3倍以上の防衛費が必要になる。当然、大軍事国家になってしまう。しかも有事に来援した米軍は韓国に出撃するので、日本が攻撃目標になる。「戦争に巻き込まれる」のはもちろんだ。
孫崎氏は「中国は米国と戦争をするつもりはない」という前提も番組で語った。これも現実を無視した願望にすぎない。米国防総省は一貫して中国の軍事力、とりわけ長距離射程能力の増大に懸念を示している(2014年版議会向け年次報告書)。
こうしてみると、集団的自衛権問題の核心は日本海で米艦船を助けるかどうかではない。日本の安全保障が独力で達成できるか否かである。達成できないからには、米国と手を組むのがもっとも安上がりでかつ現実的なのだ。今度の国会には、ぜひ根本的な議論を望みたい。
■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2015年1月30日号