国際情報

イスラム国の伸長 一神教と国家の歴史的な相性の悪さが露呈

 イラクやシリアで活動する「イスラム国」の問題が世界的な脅威となっている。なぜ彼らのような集団が力を持ち、勢力を拡大しているのだろうか? 思想家・武道家の内田樹氏が解説する。

 * * *
 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など唯一絶対の神を信仰する宗教で信仰者は超越的な神と1対1で向き合う。ラビや神父や律法学者はいるが、彼らの媒介なしでは神と信仰者が向き合えないということはない。まして世俗の権力や親族のしがらみや地域社会の利害など一神教にとっては副次的なものにすぎない。

 だから、国家権力は一神教に対して、その本質的な反世俗性・反権力性をたわめようと歴史的な努力を続けてきた。それなりに成功を収めた方法は二つあり、一つは一神教を「国教」にすることで無害化するという仕掛け、もう一つは政教分離である。

 政教分離というのは宗教を「私事」の領域に閉じ込めて、公共の場からすべての宗教性を払拭することである。近代国家は政教分離によって一神教の持つ反国家性を制御してきた。

 いま中東で起きていることは、こう言ってよければ、「一神教が近代的な国家権力の制御を離れて、潜在的な力を発揮し始めた」というふうに形容できるだろう。この地域で特に国家の制御が効かなくなったのは、シリアやイラクやレバノンやヨルダンといった「国」を分かつ国境線が1916年のサイクス=ピコ協定(英仏露によるオスマントルコ分割案)に基づいて政略的に引かれた政治的擬制に過ぎなかったからである。

 ただでさえ国民国家としての求心力が弱く、「国」である必然性の希薄な国家であるから、一神教の力を効果的に制御できるだけの力はない。それに経済のグローバル化が拍車をかけた。国境を越えて、人間、資本、商品、情報が高速で行き交う経済システムは領域国家の土台を掘り崩した。

 シリアやイラクで勢力を拡大しているイスラム国の存在は、一神教と国家の歴史的な「相性の悪さ」が領域国家の弱体化によって、オスマントルコ帝国解体から100年経ち露呈したということだ。

※SAPIO2015年2月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン