【書評】『気まずいは100%なくなる話し方』庄司麻由里/大和書房/1404円
【評者】内田和浩(歴史研究家)
LINEやメールで人とコミュニケーションをとることが当たり前の今日。相手と会って話すのはどうも苦手という人も多いのではないだろうか。実は私もそうである。人と話すことをなるべく避け、連絡はメールで済ませようとするのは、会話がはずまないことを恐れ、イヤーな沈黙が続いたらつらいなと、臆病になっているからだ。こんな私のような「気まずさ恐怖症」人間に向かって、「それじゃあ、もったいない!」と声をあげたのが本作の著者だ。
著者は、自分の意図を100%相手に伝えるポイントは「わかりやすさ」と「説得力」だという。
ここで私が専門とする歴史からひとつ例をあげてみよう。それは黒田官兵衛の演説だ。中国地方に逼塞していた戦国大名、大友義統が九州に攻め込んできたとき、官兵衛は寄せ集めの軍勢を率いて決戦に挑んだ。そのときに兵に述べた言葉である。「大友義統はかつて戦場から逃げたことがある臆病者であるから、その兵も臆病者だ。したがって、われらが負けることは百に一つもない。義統を生け捕りにした者には身分の上下関係なく1000石を与える!」。
この言葉に兵は一丸となって奮い立ち、結果、大友義統は生け捕りにされた。兵たちの「負けるかもしれない」という不安を除いた上で、やる気を起こさせた見事な話術といえるだろう。
著者は、「話し方ひとつで世界が広がる」という。話し方ひとつで歴史が変わることだってあるだろう。
「話せばわかる」ことを信じて人間関係を広げてゆく楽しさを本書から教わった。メールを打つ手を止めて、人と心を通じ合わせる努力をはじめてみようと思う。
※女性セブン2015年1月29日号