昨年の総選挙後、石原慎太郎氏が政界引退を表明した。引退会見では「死ぬまで言いたいことを言って、人から憎まれて死にたい」と語った石原氏だが、彼の目には、かつて共同代表を務めた橋下徹・大阪市長はどのように映っているのだろうか。石原氏はこう語る。
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組織を動かすリーダーにとってエゴは必要不可欠なものです。私は若くして世に出たので多くの優秀な経営者に出会う機会があったが、松下幸之助や本田宗一郎、盛田昭夫といった人物はいずれも個性が強く、創意があった。
高校の時に親父を亡くした後、「君ら兄弟の親代わりになってやる」と言ってくれた水野成夫さん(フジテレビ初代社長)の事務所には、桜田武(元日清紡績社長・日経連会長)とか今里広記(元経団連常任理事)といった錚々たる人たちが集まって来て、世界情勢や国家を語っていた。話のスケールがとにかく大きかった。
今の経団連幹部なんかとはまるで比較にならない。口を開けば「我が社、我が業界」で、思いを馳せる対象が小さい。それでは独創的な発想も出てこない。だからこそエゴに溢れる若いリーダーが求められているんです。
政治の世界でいえば橋下徹君(大阪市長)は個性的だし、演説もうまい。若い頃のヒットラーにそっくりだ。彼はそう言うと嫌がるんだけど(笑い)。ただ、その橋下君にしても危ういところがある。それは「多数決ですべて決める」という考え方だ。
日本維新の会で一緒にやっていた時のことだが、小さな政治イシューまで両院議員総会にかけて多数決で決めようとしていた。そんなバカな話はない。部下の意見を問うのは結構だけど、多数決がすべてになれば、それは単なるポピュリズムだ。強いリーダーのやることではない。責任ある立場にある者には、重要な局面でエゴの力が求められる。
東京都知事になったばかりの頃、イギリス大使館から招待を受け、晩餐会で日本を訪れていたマーガレット・サッチャー元首相の隣に座ったことがあった。その時、彼女は「政治家は時に、周りの誰がなんと言おうと自分一人で大きな決断をしなくてはならない場面がある」と語っていた。
そこで彼女に1982年のフォークランド戦争について聞くと、周囲で開戦を支持したのは参謀総長だけだったという。しかし彼女には、イギリスの威信を取り戻すためにわずかな領土であっても絶対に手放してはいけないという信念、確信があった。そして自分一人の責任で決断し、結果を残した。
※週刊ポスト2015年1月30日号