ライフ

悩める10人の女性の確かな一歩を綴るフランス尽くしの物語

【話題の著者に訊きました!】
『パリ行ったことないの』/山内マリコさん/CCCメディアハウス/1728円

『フィガロジャポン』に連載された11の短編に、書き下ろしを加えた12の連作。登場する10人の女性たちは、10代から70代まで年齢も境遇も住む場所もさまざま。それぞれに現状に不満を抱える彼女たちの、漠としたパリへの憧れが形を持ったとき、日常は確かに変わり始めていく。

 自分の居場所はここでいいのだろうか、別の場所には別の人生が待っているかもしれない。『パリ行ったことないの』には、そんな揺れる思いを抱く10人の女性が登場する。彼女たちは年齢も境遇もさまざま。でも、みんな心のどこかでパリに憧れている。

 作者の山内マリコさんも、かつてその1人だった。学生時代から『フィガロジャポン』を読み、フランス文化に憧れていたけれど、海外に行ったことはなかった。

「私のように、日本の片隅で、パリっていいなと、ため息交じりに雑誌を読んでいる人たちに共感してもらえる話にしたかった」

 と語る。まず10人の女性の名前と年齢を決め、1人1人の物語を紡いでいった。恋に破れ、温泉地の喫茶店で働く29才の女性は、客の話からパリに興味を持つ。結婚35年の主婦はわがままな夫とのパリ旅行の支度を始める…。物語からは日本の女性の生きづらさも見えてくる。

「女の人だけが当たり前のように家事、育児、仕事をして、さらに活用されようとしている。私たち、めっちゃ頑張ってるんですけど、もっと働くの?と思ってしまいます」

 日本では子供を産むと“お母さん”になって女として見られなくなり、ある年齢になると一律オバチャン扱い。でも、パリでは違う。女性はずっと1人の女性でいられる。

「ただし、パリに行けばすべてハッピーという結末にはしたくなかったんです。一長一短あって、女として見られ続けることも実は大変なのでは、と思いますから。それに昔は地方から上京したり海外に住むのは成功の証でしたが、今は違います。居場所を求めてどこに行っても、自分がしっかりしていないとうまくやっていけないはず」

 それは自身の経験則でもある。山内さんはもともと、地元に居場所がなくて都会に出てきた。フリーターをしていた20代の頃、逃避したくてパリ留学を考えたこともあった。

 月日はめぐり、昨年11月の34回目の誕生日に、3年間暮らした彼と結婚した。新居も結婚式も指輪もナシ。慣れ親しんだふたりの居場所で、「何も変わりません」と笑う。

「同棲を始めた時にあせって結婚してたら、離婚していたと思います。1年目はすごいけんかをしました。でも、いつでも別れられると思ってたら、うまく生活できるようになり、3年目に自信がつきました。石橋を壊れるくらい叩いての結婚なんです」

 人生の新たなページをめくった山内さんと同様、この本の登場人物もそれぞれの一歩を踏み出す。最終章では、パリをキーワードにつながった10人が、特別な時間を過ごす。今が苦しくても前に進めば居場所は見つけられる。自信を取り戻した彼女たちの声が聞こえてきそうだ。

(取材・文/仲宇佐ゆり)

※女性セブン2015年1月29日号

関連記事

トピックス

九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
“鉄ヲタ”で知られる藤井
《関西将棋会館が高槻市に移転》藤井聡太七冠、JR高槻駅“きた西口”の新愛称お披露目式典に登場 駅長帽姿でにっこり、にじみ出る“鉄道愛”
女性セブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン