先の衆院選で安倍自民党が圧勝し、アベノミクスに対して一応の信任が与えられた。安倍晋三首相は成長戦略や規制緩和の推進を訴えるが、大前研一氏はアベノミクスに否定的だ。大前氏が提言する「容積率の緩和」により、いったいどんな効果が生まれるのか。
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安倍政権はアベノミクス「第3の矢」として「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げ、「規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ」と謳っているが、その中身に即効性のあるものは何もなく、官僚依存体質の安倍首相は岩盤規制の撤廃に腰が引けている。このままだと日本は、官僚とともに沈んでいくしかないだろう。
では、どうすればよいのか? 景気を良くして経済を上向かせる方法は、国内で“塩漬け”になっている個人、企業、銀行のカネを解放するしかない。それを促す最も即効性のある手立てが「容積率の緩和」である。
現在、東京23区の平均使用容積率は建築基準法の規制があるため136%でしかない。区別に見ると、最も平均使用容積率が高いのは千代田区の563.9%で平均5.6階建てだが、山手線の内側は236%で平均2.36階建てにすぎない。ちなみにニューヨーク・マンハッタンの平均使用容積率は、アッパーイーストサイドの住宅街が631%、ミッドタウンのオフィス街が1421%である。
たとえば、山手線の内側の容積率をマンハッタン並みに緩和すれば、少なくとも今の2倍以上の高さの建物が建設できる。それはすなわち床面積が倍増し、その分、テナント収入が増えるということだ。そうなると、都心エリアには企業が保有していて使っていない土地がゴマンとあるので、それがすべてマンションや商業ビルになるだろう。
また、土地を持っている個人も、その土地ではなく将来のキャッシュフロー(賃貸収入)を抵当に入れてお金を借りるABS(アセット・バックト・セキュリティ)という手法を使えば、資金がなくても古い一軒家を4~6階建てのマンションに建て替えることができる。 中高年者は土地さえ所有していれば、年金など老後の心配をしなくてもよくなるわけだ。
つまり、東京をはじめとする大都市では、都心部の容積率を倍増するだけで“空中の富”が開放されて新しい需要が創出されるから、向こう20年間は大建設ブームになるのだ。それに伴い家具やカーテンや家電製品なども売れるので、どんどん景気が良くなる。
都心部にマンションが増えれば値段も安くなるから都心回帰が加速し、サラリーマンの通勤時間が短くなる。しかも、この方法なら外部経済(転入してくる人々)からキャッシュが来るので、政府がお金を使う必要もない。いいことずくめなのである。
※SAPIO2015年2月号