芸能

風間杜夫 脳梗塞で倒れてから12年に及んだ父の看病、死を語る

 一度しかない親の葬儀にどう向き合うか。NHK連続テレビ小説『マッサン』で、主人公夫妻を人情深く支えるニシン漁師の網元・森野熊虎役を演じる風間杜夫さん(65才)が、亡き父を語る。

 * * *
「おれはな、どこかで潔くポックリ死んでやる」

 そう言っていた親父が脳梗塞で倒れたのは、25才でぼくが所帯を持った翌年だった。親父が倒れた頃からぼくの仕事は忙しくなった。もう少し元気でいてくれれば、小遣いもあげられたし、飲みにもうまいものを食べにも連れていってあげられたのに。

 リハビリもする気はなく入退院を繰り返し、体も動かず口もきけず、頭だけはしっかりとしていたのだから、親父の脳裏には日々無念さが過ったことであろう。病院に入院している親父を見舞いに行くと、「おーおーおーっ」と声を出して泣かれて、ぼくの手を握って離さない。そんな姿を見るのがつらくて足が遠のいたが、振り返ってみるともうちょっと親父に、会ってやればよかった…。

 倒れてから12年間、主におふくろとぼくのカミさんが親父の面倒をみた。ポックリ死ぬどころか、家族に迷惑をかけ通しだった。1989年11月、親父が85才で亡くなったとき、ぼくはテレビ時代劇ドラマの撮影で京都にいて、夜中、祇園で麻雀を打っていた。朝方、連絡を受け急きょ家に戻ると、親父の遺体が自宅に寝かされていた。

 泣いているのか笑っているのか、わからない親父の死に顔を見て、親父の思い出が走馬灯のように脳裏に浮かんだ。トラのパンツをはいた野球の応援、ガマの油売りの口上、鞍馬天狗の格好をした若い頃の写真もあった。

 親父、本当は自分が役者になりたかったんじゃないか。ぼくは親父の遺体の枕元に『蒲田行進曲』で演じたスター、銀ちゃんの等身大のパネルを置きたくなったよ。

 親父の葬儀は家に近い世田谷区野沢の寺で盛大に執り行われた。事務所と地域の人たちが取り仕切ってくれた葬式は、浅草の菩提寺から導師を招き、各テレビ局や映画関係者、親交のある俳優さんからの生花で祭壇は埋め尽くされた。

 テレビカメラも入って、当時共演していた里見浩太朗さんも弔問に訪れてくれた。

 通夜の弔問客も途絶え、久しぶりに集まった役者仲間と宴会になり、夜遅くまで飲めや歌えの大騒ぎになった。にぎやかなことが好きだった親父だから、きっと草葉の陰で喜んでいるだろうなと思いがよぎり、涙がホロッとこぼれた。

「あんないい人はいなかった。あんな優しい人はいなかった…」

 葬式も無事に済んで、近所の人たちと家で一息ついていると、おふくろはそう言いワーワー大泣きをしている。

 そんなおふくろを見ているうちに、ぼくはだんだん腹立たしくなって、「ちょっと待てよ、おふくろ、親父のことをおれに何と言っていた?“早くくたばればいい、このクソジジイ!!”って、口癖のように言っていたじゃないか」と少し声を荒立てると、わが家に集まっていた近所のおばちゃんたちが、「まあまあ、トモちゃん」となだめるように間に入った。

 死ぬと楽しかった思い出だけが鮮明によみがえってくる。嫌なことは忘れたいんだ。夫婦というのはそういうもんじゃないか。

 元気な頃はおふくろに手を上げたこともあったが、振り返ると倒れて弱って自分にすがるように、赤ん坊のようになっていく連れ合いを、おふくろはかいがいしく世話を焼き見届けた。

 親父を見おくると、71才のおふくろは生き生きとして、書道や生け花に打ち込んで師範になったりした。豪華客船で海外旅行をして、赤いTシャツに光り物をいっぱい身につけ、日本に帰ってきたときはさすがに驚かされた。

 趣味に打ち込む一方で、ぼくの舞台は必ず見に来てくれた。

「お前は他の役者と違う。指先まで芝居をしているね」とか、楽屋ではこちらが気恥ずかしくなるほど、大きな声で褒めてくれた。  「何せあんたは体格が外国人離れしているから、和服が本当に似合うわ」

 外国人離れしているとは純和風ということで、これもおふくろの褒め言葉だった。

※女性セブン2015年2月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン