日本人には会話下手を自認する人が多い。では、どうすれば上手に話せたり、相手の心をつかめるのか。心理学者で立正大学客員教授の内藤誼人氏が、おすすめする会話術である「後出し」について解説する。
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どう会話するのが正解か。私は「後出し会話術」をおすすめする。後出しジャンケンすれば必ず勝てるように、相手の出方をうかがい、それに合わせて「出す手」、つまり返事をすればいいのだ。いい話題がみつからなければ、無理に話などしなくていい。
自分から無理をしてしゃべろうとするから、どんな話題にしようか、相手は楽しんでくれているかどうか気に病むことになる。下手に話しかけるより、笑みを浮かべて、何かしゃべってくれるのを待てばいいのだ。
初対面の場合、自分から話題を切り出して逆鱗に触れてしまったり、空回りする危険性すらある。例えば、
「ご結婚されていますか?」「今、離婚調停中です……」「あ、すいません……」
こういう失敗は、「後出し会話術」なら起こりえない。
「先月、ちょっと精神的につらいことがありましてね」「なるほど、つらいことがあったんですね」
相手を無駄に怒らせたり、おかしな空気にならずに済む。
話にきちんと耳を傾けるということは、「あなたという存在を認めています」という“存在の肯定”であり、「あなたは素晴らしい人だ」という“尊敬”の報酬になる。あなたが聞いてあげるという行為そのものが、相手にとっての「報酬」になるのだ。
イリノイ州立大学のスーザン・スプレッチャーは、男女を組み合わせて1時間のデートをさせてみて、「今の相手ともう一度会いたいか?」という実験をした。すると、「もう一度会いたい」と求められる人間には、「相手の話をきちんと聞いてあげる」という特徴があることがわかった。
「後出し」で聞き役に徹するのが、話し上手になる第一歩なのだ。
その際、自分の発話量は、「3割」くらいが相手に好感度を与えるという心理学のデータもある。相手にたくさん話をさせつつ、相槌を打ちながら時折口をはさむのが、日本人向きのコミュニケーションなのだ。
※SAPIO2015年2月号