建築家で東京大学特別名誉教授の安藤忠雄氏はまぎれもない国際人だが、英語の早期教育については必ずしも前向きというわけではない。「まずは日本語をきちんと学べ」と説く。
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メディアでは、日本人建築家が海外で高い評価を受けているという報道を耳にする。そういった実感は特にないが、私の事務所では仕事の90%以上が海外の案件になっていることは事実だ。これまで手がけた海外プロジェクトは、アメリカやフランス、スペイン、中国、韓国、インドネシアなど40か所に及ぶ。
外国で仕事をする、あるいはコンペに参加するには「強いチーム」が必要だ。我々は設計をするが、他にも構造設計や施工をする人などがいて、さまざまな役割の人たちと一緒にチームを作る。もちろん、日本人だけではなく、現地の会社や人とも組む。
この時にお互いが自らの意見をぶつけて徹底的に議論することで、心の交流と信頼が生まれ、強いチームができる。いいチームができないようならその仕事は受けない。
日本人には、話を聞くだけで自分の意見を言わない人や、逆に相手の話をまったく聞かない人が多い。それは衝突を恐れているからである。私は初めから衝突するつもりで乗り込んでいく。
2014年9月にオープンした上海のオペラハウス(保利大劇院)や、先のAPECの会場になった北京のホテルなど、これまで中国でもいくつか設計を手がけてきた。よく「中国人は手抜きをする」「信用できない」などという人がいるが、まったくそんなことはない。本気で本音の対話をすれば、相手が中国人でも衝突を乗り越えていいチームを作れるし、今まで問題が起きたこともない。
国際的な仕事をするには英語が必要だと言われる。それを否定するつもりはない。しかし、その前に日本文化を学び、日本人としての地盤を固めていなければ国際人とはいえない。生まれたばかりの子供に英語教育をするのなら、それより先にきちんとした日本語で意思を伝えることを教えるべきだろう。
実は私は英語がほとんど話せないが、不便を感じることは少ない。海外のクライアントでも、熱意を持って仕事に臨めば必ず意思は通じ、思いを一つにすることができる。それで海外の仕事を35年やってきたし、何の問題もなかった。
心の交流が必要だというと、すぐに酒を連想する人が多いが、酒に頼った信頼関係など本物ではない。本当の信頼は仕事の現場で生まれるものだ。
※SAPIO2015年2月号