日本人の死亡原因の第3位は肺炎だ。特に高齢者は肺炎で亡くなる人が多い。その原因の一つとして、食物を飲み込む嚥下(えんげ)機能が低下し、食物が気管や気管支に流れ込んで起こる誤嚥性(ごえんせい)肺炎がある。まれに泥酔者でも嘔吐物が気管に流れ込んで起きる誤嚥性肺炎もあるが、この場合は食物に交じって胃液も流れ込むため、肺組織を壊してしまい、より重篤になりやすい。
食物や飲料は、口から咽頭(いんとう)を経由して食道を通り、胃に運ばれる。咽頭は途中で食道と空気の通り道である喉頭・気管に分岐しており、食物が通る場合は喉頭・気管の入り口の喉頭蓋(こうとうがい)が閉じて気管に食物が入らないような仕組みになっている。誤って気管に入った場合は『むせる』という強い咳嗽(がいそう)反射が起こり、食物を外に出す。
しかし、高齢者は嚥下能力や反射機能が低下しているため、食物や口腔(こうくう)内の雑菌を多量に含んだ唾液が肺に流れ込みやすく、また流れ込んでも咳嗽による排出がしづらい。普段から痰が絡みやすく、喉がゴロゴロなっている人は反射機能が落ちている可能性があるので注意が必要だ。
帝京大学医学部附属病院呼吸器外科の川村雅文教授に話を聞いた。
「我々は普段、何気なく食べ物や飲み物を飲み込んで(嚥下して)いますが、老化にともなう生理現象として、この機能は低下してきます。さらに誤って気管に入った時の『むせる』という反射も鈍くなってきます。特に脳梗塞など何らかの脳機能障害があると、この反射能力はさらに落ちることがわかっています」
嚥下機能と咳嗽反射が低下すると、食事をしていない時でも唾液が気管内に流れ込んでしまい、ゴロゴロという音がすることもある。口の中には、もともと大量の雑菌が常在し、高齢者で歯磨きを適切にできていない場合などでは、さらにその菌量が多くなる。本人や周囲が気付かないうちに、口腔内の雑菌が肺に流れ込み(不顕性〈ふけんせい〉誤嚥)、誤嚥性肺炎を起こしていることもある。
戦後、肺炎は栄養状態の改善と抗菌薬の登場により、減少してきたが、高齢化の進行で近年、再び増加してきている。特に高齢者の誤嚥性肺炎は命を落とす危険性の高い病気である。誤嚥性肺炎の予防には、歯磨きやうがいといった口内のケアも欠かせない。誤嚥を起こさないように運動の継続も大切だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2015年2月6日号