社会風刺のグラフィティアートを世界各地のストリートにゲリラ的に描くイギリスの覆面芸術家「バンクシー」。2014年10月に逮捕されたとの噂もあったが、デマと判明し、バンクシーファンは溜飲を下げた思いだったはず。いまだ素性が謎に包まれた神出鬼没のアーティストとして、ますます人気は高まるばかりだ。
無断で街頭にペイントするグラフィティアートは、器物破損などに該当し起訴のリスクがあるにもかかわらず、バンクシー作品は“描かれたことが名誉”とでも言うべき位置づけになっており、今や自治体などからも好意的に受け入れられるほど。
その究極系とも言えるのが、パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区)。イスラエルとヨルダン川西岸地区を隔てる「分離壁」に描かれた作品をはじめ、パレスチナにはバンクシー作品が数点、存在している。今や、パレスチナを代表する観光名所になっており、タクシーの運転手ともなれば、「バンクシーの作品は散らばっているからタクシーで案内するよ」なんて声をかけているのは常套句になっているほどだ。
パレスチナに住む人々にとって、バンクシーはなくてはならない存在であり、パレスチナ人であれば、バンクシーを知らないものはいないというほどなのだ。
中心街であるベツレヘムには、バンクシーショップなるお店まで存在し、Tシャツやトートバック、マグカップなど、バンクシーの作品をモチーフにしたグッズが多数売られている状況だ。おまけに、カラースプレーまで売っており、「記念に壁に何か書いていけばいい」とまで勧めてくるほど。
にわかアーティスト気取りが、ミーハー気分で分離壁にペイントするのはどうかと思うが、バンクシーの作品によって、雇用が創出されているという状況は好意的に捉えられる向きもある。「これぞアーティスト!」と呼ぶにふさわしいパフォーマンス……バンクシーの作品は、パレスチナ人にとって“希望”の星なのだ。