芸能レポーターの草分け的な存在で知られた梨元勝さん。芸能人の赤裸々な情報を伝えつつも、人間味溢れる優しい人柄から周囲から愛される存在だった。2010年65才で肺がんで亡くなるまで、家族とはどう過ごしたのか。娘の梨本麻里奈さん(34才)が父の最期の時を語る。
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「海に行きたいな」
夏になると、父はそう話していました。実は、友人と共同名義でクルーザーを所有するほど海が好きでした。
「早く治って海に行って船に乗ろうね」
そんな話をしている間にも、8月初旬に行った2回目の抗がん剤の影響で、体力がガクッと落ちてしまった。
8月20日のことでした。
「原稿の仕事を全部やめたいから、事務所の人に連絡してほしいんだ」
最後までベッドの上で書いていた新聞の仕事でした。
「えっ、やめちゃうの!?」
「いいんだ、もう書けないんだよ」
寂しい沈黙のあと、「麻里奈、お水が飲みたい」、私は水差しを口元に持ってお水を飲ませてあげました。そのとき、ふと私の顔を見つめる父の視線を感じました。水を飲むと父は、背中をさすってほしいと言うのです。
「麻里奈に背中をさすってもらって幸せだなぁ。ありがとう、ありがとう」
父の私を見つめる視線も、私へのありがとうの言葉も、共に生きた30年間の思いがこもっていたのでしょうか。
「また明日来るからね」
そう言い、握手をした手に力強さはありませんでしたが、それが最期の別れになってしまうとは…。
「結婚した当初から苦労をかけたね。みんなでいろいろ旅行に行ったよね。麻里奈とスキーにも行った。ハワイを旅行したときは楽しかったよ」
その夜、父と母はいろんなことを話したそうです。
「怖いんだ…」
「大丈夫よ、ずっとそばにいるからね」
「ありがとう、ありがとうね」
その後、トイレをすませ2人の看護師さんに、ベッドに上げてもらうとき、
「そっとね、ゆっくりね」
それが、最後の言葉だったそうです。
※女性セブン2015年2月12日号