テレビはネットなど新しいメディアに取って替わられる、もう面白いテレビ番組を作るのは不可能だ──などと悲観的な見方をされることも少なくない。しかし、本当にそうだろうか。コラムニストの亀和田武氏が、低予算でも環境が整っていなくても、テレビ番組は面白くなるという例を紹介する。
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受信料という潤沢な資金のあるNHKだから、新たなチャレンジが可能なのだという見方は一面で正しい。それに加えてスポンサーのいないことで、民放よりはるかに自由度がある。
では企業の規模の大小、身もフタもない言い方をするなら、金の有無だけが新しいコンテンツや才能を生み出すすべてかというと、案外そうでもないところが愉快だ。
東京ローカルにTOKYO MXというテレビ局がある。「5時に夢中!」という帯番組からデビューしたのが、いまをときめくマツコ・デラックスだ。夕刊紙から下世話な記事をピックアップし、コメンテーターに感想を訊く。きわめて安上がりの作りだ。
おまけに東京都の息がかかった局で、「都知事定例会見」も放送しなくてはならない。 石原慎太郎の都知事時代、彼の言動を紹介する記事の感想がマツコに求められた。「うーん」といって十秒近く黙るマツコ。司会者の顔を見て「この沈黙で、アタシの気持は判るでしょ?」。
画面に緊張が走る。
「どうしても、何か言えというなら、言うわよ。でも、いいんですか?」
慌てて笑いでゴマかし、次の話題に逃げる司会者。
スリリングなやりとりで番組は話題を呼び、マツコは怖いもの知らずのスターになった。金はないし縛りは一杯ある小テレビ局でも、やりかた次第でスターは生まれる。
くわえて“炎上”とは無縁な、程の良い緩さと、録画率を含めればまだまだ膨大な数を擁する視聴者。テレビは依然としてメディアの帝王だし、新しい娯楽をいましばらくは提供しつづけることが出来るだろう。
しかしその間に何を作るかで、十年後の運命が決まる。
※SAPIO2015年2月号