中国の富裕層の金銭感覚については、独特、というしかない。現地の情勢に詳しい拓殖大学教授の富坂聰氏が指摘する。
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習近平の掲げるぜい沢禁止令により、中国国内では高額商品の消費が大きく落ち込んだとされる。だが、それでも中国人の高級時計に対する需要は相変わらずのようだ。
すでにスイスの高級統計メーカーをはじめ多くのブランドショップが中国から撤退しはじめているなか、いまでは海外で高級時計を求める者が後を絶たない。ある調査によれば中国人の高額消費の七割が海外との報告もあるほどだ。
理由は、海外で高級品を求めるのであれば、旅行も楽しめる上に買い物もでき、その上他人の目も気にしなくて良いというメリットもあるからだ。そんな事情を反映したニュースが年末から今年にかけて続いている。
一つは1月4日付『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』は、ドイツ・フランクフルトの高速道路を走行中、公衆トイレが有料であることを告げられた中国人ツアー客たちが騒ぎ始め、無理やりバスを停止させた上に男も女も野外で用を足したという記事を掲載した。驚くべきはトイレの値段で、わずか0.7ユーロ(約93円)だったことだ。記事では、このツアー参加者たちは〈数千ユーロもする腕時計を買っていたのに〉と、疑問を示していた。
同じように1月14日に『法制晩報』が伝えたのは、ドイツ旅行から帰国した観光客のスーツケースが紛失してしまったことに対する賠償を争った裁判の結果である。興味深いのは、被害者の男性が別送のスーツケースに入れていた腕時計の金額で、それが約7.17万ユーロ(約953万円)であったことだ。
結局、スーツケースを紛失したルフトハンザに対して下されたのは1000元(約1万8800円)の賠償だったというから泣くに泣けない話である。