子供たちを虜にし、時代を象徴する存在となった文具には、「だけどそれ、本当に文具?」と首を傾げたくなるものもある。その代表格が、1970年代後半に流行した「スーパーカー消しゴム」だろう。
当時は少年ジャンプ連載漫画『サーキットの狼』が大ヒット。空前のスーパーカーブームが巻き起こっていた。そのため1回20円程度の「ガチャガチャ」で手に入る“消しゴム”に子供たちが群がった。しかし“消しゴム”とは名ばかり。
「実際は単なる塩ビ(塩化ビニール)製のオモチャで、鉛筆を消そうとするとノートが真っ黒になった」(48歳会社員)
たとえ機能が伴っていなくても、「消しゴム」だから学校に持ってきて遊ぶことができたのだ。
当時の遊び方は、机の上をサーキットに見立てた「レース方式」が主流。ボールペンのノック機能で消しゴムをはじき飛ばし、先にゴールラインを越えた方の勝ちだった。負けると自分の消しゴムを奪われてしまうので必死に走行距離を競った。車種は豊富だったが、平べったくて速い(飛びやすい)「カウンタック」が一番人気だった。
「みんな改造に熱中していた。裏面にホッチキス針を打ったり、接着剤を塗って滑りやすくしたり……。ボールペンのスプリングを改造する策士もいた」(同前)
あまりのブームに「それはオモチャだ」と持ち込みを禁止する教師も多かったが、子供たちは頑として「消しゴムだ!」と言い張った。
※週刊ポスト2015年2月13日号