文具は、いつの時代も子供たちの「憧れ」だが、心を躍らせた文具は世代によってガラリと変わる。
高度経済成長(1954~1973年)まっ只中の1960年代、小中学生が憧れたのは「実用品」としての文具だった。この時代、明らかな子供向け商品はそれほど多くなく、小中学生は大人が持つ高品質で実用性が高い文具に恋い焦がれた。
当時、大ヒットしたのがパイロット万年筆『エリートS』だ。大橋巨泉氏が出演したCMをご記憶の読者も多いだろう。
〈みじかびの きゃぷりきとれば すぎちょびれ すぎかきすらの ハッパフミフミ わかるね!〉
という巨泉氏の意味不明のセリフは流行語にもなった。ペン先は大型の18金製、携帯に便利なショートサイズが人気を集め、生産が追いつかないほどの売れ行きとなった。
大人の憧れだったパイロット万年筆の一方で、子供の羨望の的となったのが『三菱鉛筆uni』(1958年発売)。当時1本10円が相場だった鉛筆市場では破格の1本約50円。深いエンジのボディカラーとゴールドの刻印が高級感をさらに煽った。
「普通の小学生ではとても持てない高級品だった。だから親に“勉強するから”とねだって買ってもらった記憶がある。カバンに入れたとき、少しだけ自分が大人になったような気がした」(65歳男性)
『uni』は1ダースで買うと、プラスチックの箱がついてきた。それを筆箱として使うことが、一種のステータスでもあった。1965年発売の『アーム筆入』も時代を象徴する品だ。〈象が踏んでも壊れない〉のCMで人気に火が付いた。
「“本当に壊れないのか”と、筆箱に飛び乗る子供がたくさんいた。あまりに激しく力をかけて壊れてしまうことも(笑い)」(50代会社員)
前述した『uni』や、消しゴムのベストセラー『MONO』(1969年発売)など、この時代に生まれた大ヒット文具は現在も多く流通するロングセラーとなっている。
※週刊ポスト2015年2月13日号