2月2日夜、安倍晋三首相側近の世耕弘成・官房副長官がBSフジの番組に出演。「自己責任論の立場には立たない。後藤さんを守れなかったのは政府の責任だ」といいながらも、後藤氏がシリアへ出発する前、外務省が3回にわたって渡航を止めていたことを初めて明かした。
安倍政権の広報宣伝戦略を担う世耕氏が、人質死亡が明らかになった途端に「外務省が渡航を止めていた」と言及したこと自体、視聴者に“政府の忠告を無視して危険地域に入った人物だから殺されても仕方ない”という印象を植え付ける狙いが透けて見える。
しかも、ネット上では殺害公表前から安倍首相を支持する自称“愛国者”がジャーナリスト・後藤健二氏の「自己責任」を問う異様な論調が高まっていた。
タレントのデヴィ夫人がブログで〈不謹慎ではありますが、後藤さんに話すことが出来たらいっそ自決してほしいと言いたい〉と書くと2万人以上が「いいね!」とそれを支持した。
差別主義的な書き込みも多くなされた。元航空幕僚長の田母神俊雄氏は〈後藤健二さんと、その母親の石堂順子さんは姓が違いますが、どうなっているのでしょうか。ネットでは在日の方で通名を使っているからだという情報が流れていますが、真偽のほどは分かりません。マスコミにも後藤健二さんの経歴なども調べて流して欲しいと思います〉とツイートした。
そうした批判は殺害後も収まらず、世耕証言が大きく報じられると、ネットに溢れる自己責任論を一層煽り立てる効果をあげた。
越度(おちど)のある者は助けなくていいというなら、もともと国家も行政権力も要らない。危険なところに自ら赴いた者は“非国民”というなら、政府は二度と登山家や宇宙飛行士を称えてもらいたくない。
イスラエルでの記者会見で、安倍首相は6000人のユダヤ人を救った戦前の日本の外交官、杉原千畝(すぎはら・ちうね)を讃えた。しかし、杉原は政府の方針に逆らいながら自らの良心にしたがってユダヤ人にビザを発給し、歴史に評価された人物だ。
「政府に従え、従わなければ自己責任だ」と後藤氏に責任転嫁する安倍首相に杉原の功績を語る資格はない。
※週刊ポスト2015年2月20日号