イスラム国が公開したヨルダン軍パイロットを処刑する映像からは、この集団がただ残虐なだけでなく戦略と狡猾さを持ち合わせていることがわかる。オバマ米大統領とヨルダンのアブドラ国王の会談シーンに始まり、「有志連合」の空爆によってシリアで幼い子供が命を落としたことを連想させる演出を繰り返す。
続いて鉄の檻に入れられたパイロットに火が放たれる。その遺体をブルドーザーで埋める“演出”は、“先の空爆で瓦礫に埋もれた子供と同じ目に遭わせる”というメッセージにも取れる。
そして最後にヨルダン軍人の「殺害対象リスト」を映し出す。約23分間の映像はCGや音楽が多用された凝った編集だ。
そのテロ集団がジャーナリスト・後藤健二氏を殺害する動画の中で安倍晋三・首相に対し、「お前の国民はどこにいたとしても殺されることになる。日本にとっての悪夢を始めよう」と予告したのである。
現在、海外在留邦人は世界に約126万人、中東にはざっと1万人が生活している(旅行者、短期滞在者を除く。2014年海外在留邦人数調査統計)。
商社やメーカーの駐在員をはじめ、難民支援活動を行なうボランティアも多い。現地で人道支援の先頭に立つ日本人が最も危険な状況に置かれている。シリア難民支援を行なう国際NPOの日本人スタッフが語る。
「イスラム国は日本の人道援助を敵対行為とみなしてくる危険が高い。現地の日本人スタッフの活動場所は秘密にしている」
ヨルダンで支援にあたる社団法人スタッフは、「支援活動を続けることが犠牲者の無念を晴らすことにつながる。日本人ボランティアの帰国は考えていませんが、目立つと狙われるから、今後は団体名を出してメディアで発信することは控えたい」と困惑を隠さない。
安倍首相は在留邦人保護の強化を指示したが、これもこの政権によくある“口だけ政策”で、現地の日本人は全く信用していない。
※週刊ポスト2015年2月20日号