「マイクロ・マネージメント」とは、重箱の隅をつつくように部下の仕事を管理・干渉することだ。もちろん、肯定的な意味ではない。そのマイクロ・マネージメントを実践しているのが安倍晋三政権だと大前研一氏は以前から指摘している。アベノミクスの「成長戦略」について、とくに「女性登用」政策において、マイクロ・マネージャーらしい安倍政権特有の不可解さがあることを大前氏が解説する。
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安倍政権の本質は、官僚依存の「マイクロ・マネージャー」だということを、教育資金の贈与税非課税などを例に挙げて指摘したが、一事が万事で、アベノミクスの「成長戦略」と称する政策はマイクロ・マネージメントのオンパレードだ。
たとえば「残業代ゼロ」制度。これは「年収1075万円以上」で「高度な専門的知識を持つ」為替ディーラー、ファンドマネージャー、研究開発職、コンサルタントなどを対象に、働いた時間ではなく成果で賃金を支払うというものだ。
しかし、なぜ年収1075万円以上なのか? 職種の基準は何なのか? 根拠となったのは労働基準法第14条で定められた有期労働の契約期間の上限を3年から5年に延長できる要件で、その対象となる専門職の年収が1075万円以上となっているため、それを残業代ゼロ制度に転用したという。
だが、期間の定めのある有期雇用の要件を、期間の定めのない無期雇用(=正社員)が前提の残業代ゼロ制度に転用するのは、そもそも無理がある。残業代ゼロ制度に現在の企業社会の実態に即した明確な根拠はないのである。
拙著『稼ぐ力』(小学館)で書いたように、仕事が時間や場所に制限されなくなっている今日、多くのホワイトカラーの仕事は成果と給与の関係について「再定義」が必要になっている。残業代ゼロも、その再定義の中で経営者や管理職と社員が協議して詰めていくべきであり、政府が一方的に決めることではない。
「女性登用」政策も同様である。安倍政権は先の臨時国会で、女性登用に向けた数値目標を作って公表することを大企業に義務づける「女性活躍推進法案」を提出した。
女性の登用が進んでいる企業を認定する仕組みも導入し、認定を受けた企業に対しては公共事業の受注機会を増やすなどの優遇策も盛り込まれた。いわば「鞭」(数値目標の義務づけ)と「飴」(優遇策)によるマイクロ・マネージメントの典型である。同法案は衆議院の解散・総選挙によって審議未了・廃案となったが、開会中の通常国会に再提出される見通しだ。
ところが、その一方で地方創生の司令塔となる「まち・ひと・しごと創生本部」は、合計特殊出生率を2013年の1.43から1.8程度に引き上げるという目標を掲げている。安倍政権は女性をもっと働かせたいのか、それとも女性がもっと子供を産みやすい社会にしたいのか、私にはさっぱりわからない。
※週刊ポスト2015年2月20日号