より細密に、より深く──最先端を行く専門誌の世界を紹介する。今回取り上げるのは、鳩レースの専門誌『愛鳩(あいきゅう)の友』だ。
『愛鳩の友』
創刊:1956年
月刊誌:毎月20日発売
部数:3500部
読者層:愛鳩家
定価:2400円
購入方法:発行元・(株)愛鳩の友社に直接注文。
よく晴れた日、群れをなして飛んでいる鳩を見たことがあるだろうか。「鳩レースを控えて、愛鳩家が自分の鳩を訓練しているか、委託鳩舎が、預かった鳩を飛ばしている最中か。鳩レースの真っ最中か、どれかですね」と言うのは、『愛鳩の友』編集長・明神恵里さん(57才)。
レース用に飼育されている鳩は、公園でエサをついばんでいるドバトとは似て非なるもの。飛翔能力と帰巣本能が優れた血統の種鳩をかけ合わせる。要は競馬と同じ、ブラッド・レースだ。
値段も「1羽10万円というのはふつう。本場のベルギーやオランダから直輸入した、優秀な血統の鳩は100万円単位です」と明神さんはサラリと言う。
レースは、複数の愛鳩家が各自の飼育している鳩を持ち寄って、同一地点から同時に放鳩し、帰ってくる速さを競うものだが、全ての鳩が巣に帰れるわけではない。
途中、道にはぐれる鳩、鷹などに襲われる鳩等々、距離が延びていくにつれて危険は増して、1000kmレースの帰還率は5割を下回ることもあるそうだ。明神さんは語る。
「鳩レースは戦後すぐ、大ブームが起きて、趣味の少ない時代の男の子の遊びでした。その当時からずっと続けている人もいれば、仕事や住宅事情でいったんやめていた人で、退職後、再開した人もいます。アメリカではマイク・タイソン、日本では新沼謙治や増井山関などが愛鳩家として知られていますね」
現在の愛鳩人口は1万人。日本伝書鳩協会、鳩レース協会と大きな団体が2つあって、春秋には桜花賞など大きなレースが全国各地で開催されている。
「その結果を掲載するのが本誌の役割の1つ。賞を取った人の祝賀会の様子も載せています」
とはいえ、同誌の読者が高齢化の一途をたどっているのも現実で、「ありがたいことに60年前の創刊時から、ずっと読んでくださっている人もいます」と明神さん。彼女は社長兼編集長だった夫が亡くなる3年前まで、経理として夫を支えてきた。
「鳩のことはちっともわからない」と言いつつ、「読者は動物が好きで、やさしい性格。根気強い男性が多いですね」と言う。
2013年春号の巻頭カラーグラビアを飾ったカリスマ愛鳩家O氏も10才から鳩を飼い始めた根っからの愛鳩家だ。東京の下町で150羽の選手鳩を飼っている彼は、勝つ鳩のつくり方を語る。
〈通常は優勝鳩と優勝鳩を掛けたら優勝できる鳩が生まれると考える。異血同士の配合は、いい結果を出す可能性が高いといわれている。…それができなかった。30年、40年と…ひとつの系統でやってきたからだ。…兄弟配合の子、同腹配合の子、それからまた親子で掛ける〉
そうして勝てる記録鳩をつくり、さらに3年後に優秀な鳩をたくさんつくったそうだ。
そんなO氏の飼い方を紹介するDVDが付録に付く号もあり、「鳩レースは、おじさんがこんなに長い間、夢中になるんだから、それは面白いよ」と、少年の顔にもどった、楽しそうなO氏の笑顔がなんとも印象的だ。
「結局、子供時代に鳩に魅了された人はずっと、その気持ちが続くんでしょうね。仕事から帰って、まず鳩舎で1時間ほど鳩と過ごしてから家に帰る人もいます」と明神さん。
愛鳩の友60周年を記念して、今年の秋には日本60人、欧州60人、1人2羽限定の国際レースが行われる。
同社の屋上鳩舎には、その選手鳩のためのスペースが並んでいた。
取材・文/野原広子
※女性セブン2015年2月19日号