死地で取材に奔走する戦場ジャーナリスト。その仕事柄、独身者も多いが、イスラム国に命を奪われた後藤健二さん(享年47)のように既婚者の方もいる。戦場に出て行く彼らを妻たちはどんな思いで送り出し、そして待ち続けているのだろうか。
村上和巳さん(45才)はイラクやシリアなどの戦場で取材を重ねたジャーナリストだ。2004年4月から1か月半、日本に妻と生後1か月半の長女を残して戦時のイラクに入った。
「ヨルダンからイラクに入ってネットカフェから妻に『入ったよ』とメールすると、『イラクに入るときは、私に事前に相談することになっていたのに話が違う』と返事が来たんです。しばらくメールでけんかのようなやり取りが続きました。パソコンに向かって怒鳴りながらメールしていたら、従業員に『OK?』と心配されました。最後は『とにかく気をつけてほしい』とメールが来ました。やっぱり心配で仕方がないという妻の思いが伝わってきました」(村上さん)
それから妻は毎日のように、携帯で撮った子供の写真を送ってきた。
「ガラケーだったから解像度が低かったけれど娘が成長していく様子がわかりました。
『SSサイズからSサイズのオムツになったよ』とか『耳掃除をすると気持ちよさそうにしていたよ』とかひと言つけ加えてありました。妻は決して『帰ってきてほしい』とはいいませんでしたが、本心ではそう思っていたのかもしれません」
村上さんは充分に下調べをしてからイラクに入国したが、何が起こるかわからない場所が戦場だ。取材を始めて数週間後、武装勢力に拘束された。
「タクシーに乗っていたら、急に銃を持った集団に囲まれて、ビルの一室に連れて行かれました。両手を縛られ目隠しをされて、椅子に座らされました。しばらくして、ガチャガチャと銃をいじる音が聞こえてきたんです。そのときは死を覚悟しました。それから目隠しをとかれて英語で尋問された後、“無罪放免”ということで解放されました。家族にはそうした危ない目に遭ったことは詳しく言いません。心配させるだけですから」
1か月半の命懸けの取材後、日本の出版社などに情報や写真を売って得た収入はトータルで105万円あまり。
「経費は35万円ほどかかったから、私の命の値段は70万円ということです。収入は傍から見れば不安定で、月ごとに波があります。
会社員の妻は、一家の家計を支えてくれています。国内にいるときは私が家事をしていますが、一家を支えてくれているのは妻です。ものすごく感謝しています」
※女性セブン2015年2月26日号