アイスのパッケージに書かれた「長時間持つと手が冷たくなります」や、カップスープに書かれた「お湯を入れると熱くなります」など、「当り前では…」と感じる過剰注意書きが最近目に付く。なぜこんな注意書きが増えてしまったのか。消費者庁が言う。
「1995 年にPL法(製造物責任法)が施行されました。PL法とは製造物の欠陥により損害が生じた場合、製造業者等の損害賠償責任について定めた法律です。この法律ができたことだけが原因ではありませんが、さまざまな商品事故が起きるなかで製造業者が対処するために表記が詳しくなっているのは確かです」(消費者安全課)
時代の変化とともに、企業をとり巻く環境は厳しさを増している。事実、国民生活センターには消費者から驚くような申し出が相次いでいるのだ。
「栄養補助食品のお菓子を食べたら他の種類に比べて硬かったのであごを痛めてしまった。注意表示がほしかった」(50代女性)
「蛇口に取り付けたホースに水を流したらホースが動いて足をとられて転んでしまった。子供向けの注意書きはあったが高齢者も危ないと書いてほしかった」(80代女性)
「ヘアアイロンを使ったらアイロンの熱で額をやけどした。やけどや高温に注意という注意書きがなかった」(60代女性)
丁寧すぎる注意書きがあふれる背景には、消費者から寄せられるそうした“理不尽な声”が影響しているのではないだろうか。クレームを受けても責任回避する策として、製造業者側は注意書きを増やしているのだ。そう考えると、注意書きからは、ただ丁寧なだけでなく、企業の“守りの姿勢”が見えてくる。
例えば歯みがき粉には「歯みがき後はブラシを根本まで水で十分洗いながす」とあるが、これは万が一、歯みがき粉が残っていた部分が腐ったりカビがはえたりした場合のクレームを恐れての記載と推測できる。
また、食器洗浄機専用の洗剤には次のように書かれている。「頑固な汚れは、あらかじめ落としてください」。きっと“洗っても汚れが落ちないんだけど!”という声があった場合の予防策なのだろう…。
使い捨てマスクには「耳かけを引っ張りすぎると、ゆるくなることがあります」。“強く引っ張ったらヒモが伸びて使えなくなったわよ”という声が寄せられたのかもしれない。
明らかに通常より大きな注ぎ口のヨーグルト飲料にはしっかりと「口が大きくなっていますので、注ぐ際にはご注意ください」と書かれている。見ればわかると思うけれど、きっと“こぼれちゃったよ!”と言われるのを恐れているのだろう。
詰め替え用のボディーソープに書かれた「注ぎ口を手で切りにくい時はハサミで切って開けてください」という文言を見た時には、思わず「子供じゃないんだから…」とガッカリしてしまった。
挙げればキリがない“注意しすぎな注意書き”。いくら「お客様は神様」とはいえ、やりすぎではないだろうか。評論家の呉智英さんが苦言を呈す。
「企業は一生懸命ユーザーのためにやっていると言いながら、実際はクレーマー対策や責任を問われないためにやっているのでしょう。言いがかりのような訴えをする消費者たちは昔からいました。昔と違うのは、ひとつの情報がインターネットであっという間に拡散してしまうこと。企業はそれを恐れて過剰反応している。 日本はこのままでは米国のような訴訟社会になってしまいます。消費者のほうも理不尽な言いがかりの結果、そのような社会になってよいのか今一度考えるべきです」
※女性セブン2015年2月26日号