アベノミクスで日本の株価は大きく上昇したが、それは単に金融緩和による物だけではない。そこには中国の影が見え隠れしている。中国経済に詳しいRFSマネジメント・チーフエコノミストの田代秀敏氏が解説する。
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5年ほど前から、トヨタやソニー、東京電力など80社以上に及ぶ日本の大手企業の株を片っ端から買い漁る謎の投資家の存在が取り沙汰されてきた。「SSBT OD05 オムニバス・チャイナ・トリーティ」など、”チャイナ”を冠した複数の名義をもつ謎の株主が、各社の大株主として次々に姿を現したのである。有価証券報告書には第10位までの株主しか記載されないが、2012年3月末時点で、表に現れただけでも時価総額は約3兆5000億円に達していた。
以前からこの謎の株主の正体は中国の政府系投資ファンドのCIC(中国投資有限責任公司)ではないかと噂されてきた。
福島の原発事故の直後に、東電株が大暴落し、中国国内で騒ぎになったことがあった。CICは年金基金がベースなので、東電株の暴落で損失を出し、年金支給額が減ると一般の中国人が思い込んだのだ。
その騒ぎを抑えるため、CICの汪建熙・副社長が、「いわれているほど東電株を保有しているわけではない」「一時的な要因に対して大げさになる必要はない」と発言し、それを新華社が報じた。CICが買っていることを認める発言を、中国政府が公認したのである。
これほどの規模で日本株の売買をしていれば、株価に影響を及ぼすのは当然である。
日本の株価は海外投資家の売買に大きな影響を受ける。2012年末に日経平均は1万395円だったのが、2013年末に1万6291円と大幅に上昇した。この間の海外投資家の買越額(買いと売りの差額)を見れば、2012年は2兆7074億円だったのが、2013年は14兆6508億円にまで激増している。海外投資家が買いまくったから株価が上がったわけだが、そこには当然、CICが含まれている。つまり、アベノミクスの株価上昇の影に、中国資本による日本買いがあったのである。
現在のところ、CICは経営に口出しをしない超安定優良株主で、企業にとってはありがたい存在である。しかし、中国企業がグローバルな巨大企業に成長した暁には、順次、日本企業を傘下に収めていくと見て間違いない。アベノミクスの株価上昇で浮かれている間に、中国の日本買い戦略は着々と進んでいるのだ。
※SAPIO2015年3月号