フランス人経済学者、トマ・ピケティが書いた『21世紀の資本』(みすず書房)が相変わらずよく話題にのぼる。私も出演している2つのテレビ番組でコメントを求められたのを機に、一気に読んでみた。
たしかに面白い。どこが面白いかといえば、人々が直感的に理解していることを経済学者がきちんと実証してみせた。つまり「金持ちはますます金持ちになる。それは不公平だ。だから彼らにこそ重税を課すべきだ」という直感である。
なぜ金持ちは金持ちになるか。それを証明するのが、「r(資本収益率)>g(経済成長率)」の不等式だ。金持ちは相続財産を運用するだけで、サラリーマンより収入が高いという話である。これをみて「なぜそうなるのか」と聞いた学者がいるそうだが、そういう質問自体がピンぼけではないか。
なぜじゃない。ピケティは論理的必然ではなく歴史的事実と念押ししている。庶民の直感を小理屈で証明したのではなく、膨大な歴史データで証明した。まさに力技だ。多少の議論はあるにせよ、以上は誰も否定できない現状分析である。ところが不公平を改める政策論となると、とたんに混乱してくる。
民主党は格差批判のネタになるとみて、岡田克也代表らがピケティに面会し国会質問で使った。だが、民主党が推進した消費増税にピケティは反対している。若者も増税を負担せざるを得ないからだ。
むしろ、ピケティは所得税や相続税を増税すべきだという立場である。自民党は消費税も増税したが、実は所得税の最高税率を2015年分から45%に引き上げ、相続税も基礎控除額引き下げによって増税した。
ピケティの立場に一番近いのは日本共産党のようにも見える。だが、彼らはそもそも資本主義を認めていない。ピケティ政策が現実の日本政治に採用される日は残念ながら、はるか先になりそうだ。(一部敬称略)
■文・長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2015年2月27日号